駅に付随するショッピングモール、エクセラのラの部分がなくなってエクセになっている。果たしてラを失ったエクセラはエクセラなのか。エクセラはどこまでエクセラとしての意識を保っているのだろうか。
すっかり風化して廃墟と化したチナミ駅のホームで、伊上はどうにも哲学的な気分になった。歪んだ椅子に座り、ところどころ瓦礫に埋まりかけた線路を見下ろしてから、エクセラより更に上を見上げる。赤い空に輝くログイン画面。
先程、財産を持て余し夫への愛情が尽きた人妻のように送った88件のメッセージの返事はまだ来ていないようだったので、更に25件のメッセージをばら撒いた。ただ、送ったメッセージの中に両親と妹宛のものはなかった。連絡先が見つからなかったのだ。もしかすると、この世界に拉致されていないのかもしれない。
とはいえ、それはむしろ伊上にとっては好都合だ。3年前に卵焼きに砂糖を入れるか出汁を入れるかが原因で離婚したが、ついこないだ両方とも混ぜる事で妥協し復縁した両親と顔を合わせるのは少々気まずかった。伊上はしばらくの寮生活ですっかりマヨネーズで味付けをするようになってしまっていたからだ。
そんなこんなで上を見ながらぼんやりしていた伊上は、自分の事を駅員だと思っている結婚アドバイザーに話しかけられた。
「終電もう行ったよ」
「今深夜なんですか……」
頭がおかしくなりそうだ。こんなに赤い空で時間なんか分かって堪るか。その些細な一言で非行少女だと勘違いされている事を見抜いた伊上は「うるせー大人には関係ねーだろ」と叫びそうになったが、理性で押し留めた。
「こんな時間までウロウロしていたら婚活パーティーじゃ生き残れない。帰りなさい」
思春期特有のセンシティブな心が限界を迎えたので、伊上は線路に飛び込んで走って逃げた。帰り方が分からなかったし、何より10代の身空で首から上が炭化しているおっさんに結婚について説かれるのには辛抱できなくなったのだ。
暫く線路を走った。息を切らしながらその速度を緩め、やがて立ち止まった。少し乱れたセピア色の髪を払って顔を上げる。果てしなく赤い空の向こうには、やはり瓦礫と化したチナミ区の街がある。その向こうには?
──学校があるはずだ。
やはり帰る場所とは程遠い姿になっているか、もしくは原型すらなくなっているのだろう。しかしどうなっているのかが訳もなく気になって、そこまで辿り着きたい気持ちに駆られた。
瓦礫の向こうのそのまた先の先、相良伊橋高校へ。
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2019年3月10日㈰
須崎くん、五百蔵くん、尾山さんと合流した。
カミセイ区の方向へ向かう。
前回に引き続き安否確認を送信。
■戦闘
ピンポイントが跳ねている結果が多く見られる。CRIアタッカー強いのでは……と思ったがナレハテのステが低いだけかな?
遭遇戦:敵の構成⇒不明。普通にヒーラー構成。
練習戦:見た感じ1列で固めてくる? 回避に警戒。
SPがまだ300と少ないので、今の所SP攻撃は有効なんじゃないかと思った。貫しか持ってないけど。
■生産
尾山さんに武器を作って貰った。
今回は自分、須崎くん、五百蔵くんに装飾を作る。
装飾を上げる方向で行く。防具は作れる人がPT内にいないので外注しなければ。