【――ハザマにて】
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……以前に聞いていた〝侵略〟の話はどうやら本当だったらしい。
島の地形を想わせるながらも、荒れ果てた光景。頭上には自分達が居たであろう、街の姿が在る。
あの至極、全てが胡散臭い男――確か、榊といったか。此方に手を貸すとは言ったものの、どういう経緯でなのか、そしてどういう心算でなのかが判らない以上、何かしら裏があるのだろう。
疑えばキリが無いので、一先ずは置いておく。
……現状。
イバラシティにて巻き込まれたもの全員は、同じ場所に飛ばされているようだ。
見覚えの無いかも、見た覚えのある顔も――少し親密になったと思える顔もちらほらと確認できる。
中には、明らかに人では無い気配、イバラの街の匂いがしない者が混ざってはいるが……跡野まつりの言を信じるのであれば、〝協力者〟ということなのだろう。
なので、其処に問題はない。今更、身内がどうのなどと、考えるべきことではないから。
幸い、此方には幾人かの身内の者と縁で繋がったものが近くにいる。
今じゃ、家族に近いような存在になった鹿驚田黒羽。
少し込み入った事情があり、肉体面、精神面共に不安要素が多いが、共闘をしてくれる協力者が居るし、天使様も私も近くに居るのだから、今のところ心配はないだろうーーと言いたいところだけど。
ゴタゴタとしてるうちに、天使様の気配が一人だけ逸れていった。
いや、そっち違いますよね。なにやってるんですか。
変な所で、お茶目というかポンコツさを発揮しないでください。
そういえば、生徒会長の――伊上 司から連絡が来ていた。
どうやら、学校関係者に大半に安否確認を送っているようだ。
生徒会に所属し、多少なり会話をしているが
まさか自分のところにも届くとは思っていなかった。
少なくとも、こんな異常事態で、そんな回りにまで気が回せる事は凄いと思う。
きっとこういう人が人を救えるのだろうと、しみじみ思ってしまう。
こんな状況でそういう事を考える辺り、自分も相当にずぶといのだろう。
他に気になる事と言えば、イノカク部の人達は無事だろうか。
皆それぞれ乗り切れる力の持ち主ではあるし、十分に強い人たちだ。
心配する事はないのだろうが、やはり多少でも縁がある仲だ。
好きーーかと問われると少し難しいが、嫌いでは決してない。
何かあれば、できるだけ助けに駆けつけたいけども……。
さて。
では迷子になった天使様を回収しつつ、予定の集合地点へと向かおう。
「「さーぁ、どっちでしょう?」」
銀髪と蒼い瞳の、全く同じ容姿の二人の少女が口を揃えて、緑髪の子に尋ねる。
問われた緑髪の子もまた、同じような蒼い瞳を瞬かせて――
暫くした後に。
「左がせっちゃん、右がりんちゃん」
そう答えて、得意げに微笑んで見せた。
思わず瓜二つの双子少女は、目を丸くしてお互いの顔を見合わせる。
「やっぱりダメじゃない、〝私〟?」「うん、ダメだった、〝わたし〟」
「だって、ふたりのことだもん。簡単にわかっちゃうよ」
くすくすとその様子を微笑ましく思う様に、愛情に満ちた笑みを浮かべる。
「「……だって。叶わないねー」」
楽しげに笑う三人を、傍で見守る者が在った。
微笑ましそうに暖かく。
その姿らを包みこむように見届けていた。
2月1日
『ガラクタ山にて、妹の学友を見つける。
どうやら意識を失っていたらしい、取りあえず声をかけておく。
……彼の名は、東堂玄樹。ソラコー二学年生。
イノカク部に――確か仮所属だったか。
水を上げた代わりに、チョコクッキーを貰ってしまった。
美味しい。餌付けされてしまう。
話しを聞く限りでは……彼も過去に色々抱えているようだ。
自分をよくガラクタ呼ばわりしているが――其れは何故なのだろう。
そして彼の片腕は肘先から欠けている。それも関係しているのだろうか。
……思いがけない、想像すらしていない名前まで貰った。
〝雪那〟……雪の如く、刹那の様に溶ける。
〝せつな〟〝刹那〟――〝楔奈〟。
わたしに繋がる名前。
恐らく、春くらいまでには消えてしまうだろうとおもっていたが。
なんとも相応しい名前だなと、笑ってしまった。
……少しだけ。身体の芯が軋む感じがするが、この名前を大切にしたいと思う』
1月31日
『思う事があってスガタミカガミに来たらしい。お陰で直接お話する事ができた。
やはりだった。今回のこれは、あの子が持つ〝異能の否定〟から始まっている事だ。
様々な要因が重なって、わたしは再びこの世界に仮初めの生を受けた。
〝わたし〟と〝私〟との繋がり、〝天使様〟の影響、異能への否定、あのカガミの存在――そして、〝器〟として造り上げられたわたし達の身体と魂。
全てが、偶然重なり合わさって産まれた、奇跡の産物。
けれども、否定の形でもあり――実際、わたしの魂は還る事を世界に否定された。
人の身には過ぎた力もったせいだったのか、あるいは――。
だけど、それがあったからこそ、今、わたしは此処に居られる。
それならば、それで出来る事をする。わたしが消えるまでの間、見つけて出来る事をしなければ』
1月30日
『――ツクナミの廃棄港で少し頓着があったようだ。
詳細は省く。結果から言えば、無事に事は終わり、解決した。それだけは良かった思える。
ティーナ様
あと、〝天使様〟自体を久々に見た気がする。懐かしいし、できれば、直接おしゃべりしたい。
そして、やっぱり〝私〟が未だに、自分の異能を拒んでいる事が確認できた。
……なるほど。
わたしがこの世界に再び産まれたのは、それも原因の一つとなっているようだ。
過去の事を踏まえ、
その異能を持つが故の特異的な体質を考えれば、仕方のない事だけど……。
色々考えると口が苦くなった。
一先ず、てぃーの顔を拝みに行こう
と、思い。聖堂の様々な面に出会った。
わたしを〝私〟だと思い違いをしている。否、実際、ソレで間違いはないのだけども。
そのお陰で、少し不味い事実に気が付く
思いだせ、りんちゃんとてぃーがスガタミカガミに行った時、どうなった?
そうだ、今はまだ〝過去を想起させる〟事はは避けるべきだ。
だから、避ける事にした。今は不味い。出会ってはいけない』
1月■■日
『……やっぱりあった。とは言え度、損傷がひどい。碌に手入れもされていない辺り、やはり触れたくない記憶なのだろう。
これではまともに使えるか怪しいし、依り代になるかも怪しい……が、少なくとも自分の半身の様な物だ。無いよりはましだろう。
少しの間、拝借させてもらうから……ごめんね』
1月■■日
『この身体の便利な所は、一つ目は、存在を主張しない限り気薄であることだ。
恐らく何かしらの影響を受けない限りは、お化けみたいなものだろう。
二つ目、空腹や疲労感が無い。
――正確には、無いのでは無くて感じない。と言うべきらしい。
詰まりは実際にはある。
1日中動きまわってみた所、翌日満足に動けなかったし、
御腹が空かないからといって、食べないでいると、
明らかに身体の機能が低下していくのがわかる。
詰まらないに、不便でだ……。なんと中途半端なものなのだろう。
精霊みたいなものかとおもったら、本当に単なる出来損ないでしかないようだ。
うーん、難儀な身体で困ったなぁ。
……そう言えば、〝私〟の記憶を共有したところ、
聖堂の地下に色々保管している場所があるようだ。
もしかすると、〝私〟と〝わたし〟の■で作ったアレがあるかもしれない。
試しに探してみようか』
1月■■日
『――〝感覚共有〟。
この異能を選んだ正解だったと確信をする。そして同時に後悔した。
〝私〟の記憶を受信、確認。
……なるほど、わたしが居なくなってからそういう事になっていたとは思わなかった。
久々に見た二人。
あの時から変わった気配の二人。
もう、二度と、あの頃には戻れない、戻せないのだと実感をする。
あの二人が無邪気で穏やかに笑い合う姿は、もう遠いのだ、と。
てぃー、君には何が起きたの?どうしてそんなことになってしまったの?
この日、この世界に再び産まれて、始めて声をあげて泣いた』
1月■■日
『どうやら、少し記憶の混線があるらしい。調律不足だ。
動くにしても整理しないと、余り宜しく無い様な気がする。
〝わたし〟は〝私〟であるし、〝私〟は〝わたし〟なのは今も、昔も変わらない。
だけど、これから先は――それに、わたし達が姉妹であった事を忘れてはいけない。
悪戯めいたこの結果に何かしらの意味を生み出さなければ、
無駄に引っかき回すだけにおわってしまう。
息を顰めているか、何かするか。
……どちらにしても時間は有限。私は期間限定の様な存在だ。
時間は限られているので、早々に決めないといけない』
1月■■日
『――身体の調律は済んだし、少し街を探索してみた。
大凡10年前と比べると、やっぱり発展しているんだな、と気付かされる。
当然だけども……。
三人で、こっそりとお忍びの冒険をしにいった場所は、
幾度かの土地開発で潰されてしまっていた。
残念だけど、こればかりは仕方のない事だろう。
……この記憶、二人は覚えていてくれるのだろうか。
考えると、少しだけ涙が出そうになった。空を仰いで、それを誤魔化す。
――あぁ、全く天気まで悪くて気が滅入りそうだ』
1月15日
『おはよう、世界!』
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