【2:00~】
思ったよりもスムーズに協力者を見つけられた。
大した意味はないかも知れないが、俺の能力の事もある。結成の成り行きを軽く手帳に記しておく。
そもそもが、出発点から次元タクシーとやらに乗った後の地点の人の多さが問題だった。
見渡す限り人、と言う訳ではないが、『Cross+Rose』を見る限りこの地点に集まるのは明らかだ。
早々に同エリアでも人気の少ない所に向かったが、それが功を成したのかはさておき――見つけた。
同じ監獄の世界に留められていた仲間――最も、侵略に乗り気か否かは相当差がある為、仲間と言えるかも怪しい奴らばかりではあるが――を。
「パ~~~イセ~~~~ン!! どこっすかぁ~~~!??」
今この文を書いている時点で筆を止めたくなった。先の展開など最早読めたようなものだろう。
出来る限り忠実にその時聞こえた声を表そうとしたが、アレは俺の字では再現不可能だ。そこは見逃してほしい。
叫び声の時点で、レオンがイバラシティでの十ヶ瀬玲音と大して変わらない性格なのは読み取れた。
そして声の先には、案の定予想通りの人物。暫くレオンと会話してから、――随分不調そうに、吐き気でも堪えてそうな男。どう見ても君島隼の元の姿であろう人物も見える。
気配を殺すのが得意かと言われると不得意ではないが、別段警戒させる意思もない。
二人の会話が全て聞こえていた訳ではないが、レオンが「どうするのか」らしき事を尋ねているのだけは理解できた。
――“どうするか”など、考えている時点で、思い当たる理由は二つしかない。
一つ、「イバラ侵略に躊躇する理由がある場合」 これは面倒だ、とか、罪悪感だとかも含む。
もう一つは、「このアンジニティと言う世界に堕ちて間もない為、状況を理解できていない場合」 だ。
前者は説得が非常に困難だ。が、――少なくとも、“イバラシティ”の二人を基準に考えるなら、前者よりも後者の方が可能性が高いのではないか。そう推測する。
少なくとも「変わっていない」とはまず言われない自覚がある己を棚上げしているが、先程聞こえた大声がそう思えるほどの威力があったからだ。これは仕方ないはずだ。そう、仕方ない。
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レーカ 「――よく通る声だな、と思ったが。
案の定、思った通りの――いや、“此方側”とは確信を持っていた訳ではないものの、其方の関係性はそう変わりないようだな。……とは言え、“此方”では初めてなら自己紹介をしよう。
俺はアンジニティの侵略に参加している、名前は……そうだな、レーカ」 |
無駄に警戒を与えないよう、足音を立てて姿を現し、こちら側から自己紹介をする。
“君島隼”と同じ顔をした方は、多少面食らった顔をしていたが、“十ヶ瀬玲音”はまるで変わらない。
それどころかセンセー呼びのあげく、テンションも何もかもそのままだ。対極に君島隼は不機嫌そうなままだったが。尚、以降レオンとヤトと呼べと言われた。
結果として、この時点の二人の動機はこうらしい。
レオン『イバラシティが好きなので侵略したい』
ヤト 『イバラシティでの仮初の人生は無意味かつ興味なし。ただし、アンジニティを脱獄する気はある』
想定で言う、“後者”だったらしい。二人ともアンジニティに堕ちて間もないのだ。
この世界を脱出するのがどれ程困難か、その事実を知らず、片や侵略、片や脱獄自体には乗り気。
――説得も何もないだろう。現状をありのまま伝えるだけで良い。
無駄に威圧的ではなく、淡々と事実を。それで断られる程の現状認識ができない愚かな存在が“本体”と言うのなら、彼らと行動を共にする意味もないだろう。敵に回らない程度に牽制だけはしておきたかったのはあるが。
とは言え杞憂だったようだ。事実を伝えた上で、それでも手放しで信じられなさそうな様子も想定の範囲内だ。
ヤトが「俺がなぜ侵略に加担しているか」その動機を聞きたがる。隠す必要性も感じられない。別に俺は、彼らに俺の楽土に居ついて欲しいと言いたい訳でもない。ただ、イバラシティを取りたいだけなのだから、こう答えた。
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レーカ 「俺は俺の為に築き上げる物がある。その為にはこの監獄内の環境では不十分だ。 それこそ、……そう、“大なり小なり不満を言いつつも、衣食住も生命もある程度保証がキチンとされている世界――イバラシティ”の様な環境がな。
アンジニティによる侵攻はこれとない好機だ。 各々抱える理由が別であろうとも、いずれにせよ“勝てば監獄から出られる”事に変わりがない。
……だが、統率力の無い群が襲い掛かったところで確率は下がるだけだ。 俺は少しでも勝率を上げる。その為に、侵攻に積極的な者と手を組みたい。」 |
「――目的についてはこれで満足か?」
そう言葉を締めくくる。ヤトが口元に手を当てて、暫し考え出す。少なくとも、感情的に拒否される程の単細胞でもないだけ助かった。無論、何となくでも敵に回るよりはマシだが、そう言った輩はそれはそれで信用ができない。そう言った意味では、「俺の動機」を考慮した上で仲間になるか考えてくれる男の方がやりやすい。そう思った。
そう思考している間に、答えが出たらしい。
“君島隼”とは幾分鋭く思える紫の瞳がこちらを見据える。何処か自嘲的に笑ってから、“その話にノってやる”と告げられた。
「人間、」と付け加えられて。
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レーカ 「――人間、か」 |
呼ばれた呼称に思えわず笑いが漏れてしまった。人間。そう言えば、目の前の二人には角がある。片方には羽根もある。要するに“悪魔”とかその類に属する種族なのだろう。彼らの世界では。だからこそ余計におかしくて、友好的であろうと努めていたのに、思わず笑いを隠せなかった。だって――
人間――
人間?俺が?自分の世界では散々■■■■の■■■種が!!最後は大量殺人鬼扱いでアンジニティに堕とされたこの俺が!!こんな監獄の世界で、よりによって悪魔に、しかも侮蔑の意を込めて「人間」扱いされるなんて!
嗚呼、もうこれが笑い話でなければ何だというのだろうか!!
おかしすぎておかしすぎて、笑いを堪えるので必死だった!!!
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レーカ 「いや、失礼。まさかこんな場所で人間扱いされるとは驚いてな。 ……名は名乗った。手を組む以上、少なくともお前の中で蔑称扱いの言葉であるなら避けてくれる方が助かるがな」 |
僅かに訝しげに眉間を寄せる様子を見て、何とかそう言い訳にもならない言葉を吐いたが、それ以上何も言及される事は無かった。少なくとも、下位種族と見てはいるようだが、無意味に仲間と関係を悪化させようと思うタイプではなかったらしい。――その辺りの強かさは、イバラシティと同じだな、なんて思った。
――この後、更に騒がしい事になったのだが、時間だ。それは次回に回すことにしよう。
具体的には忍が――いや、止めて置こう。この日記すら妨害されそうな気配がしてきた。筆を一度置こう。