──あぁ、来たか。2回目の……
手に入れかけたヒントも、支えてくれるヤツも失った。
また1人。いつものことだ。
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雨宮 「こんなにも何もなかったのか。呆気ないもんだな…」 |
失くした、という気持ちさえ今度は感じなかった。
予想していたからだ。人間とはそういうものらしい。オレはその習性は好まない。どうしても受け入れられない。
用意された記憶からスタートした"日常"。
そこから作り上げようとしたものはあまりにも簡単に壊れていった。
しかし、壊れた後は簡単で失くすものがないのはオレに自由を与えた。
再び失くしたくないモノと距離を置きながら
「 他愛のない
実りもない 期待もない。
夢もない 」
ただただ2度目のこの時まで、巫山戯て時を過ごした。
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雨宮 「イチャ部屋だっけか。ニノマエとわけわかんねェまま行ったな。」 |
そうだ。この頃から少し周りが変化し始めた。
人間同士、イバラシティの住人と自身を侵略者だと理解していない者同士の感情の違算が生まれた。
面白い。オレはそう思った。
失くした者への感情は大して持たなかったが、新しい発見をすると不完全な自分は興味を持つようになっていた。
人がモノに対して、人が人に対して抱く感情。
正直、以前自分は勝手にそう勘違いして用意された知識だけで動いていた。
今は少しだけ"他の奴"の事を考えるようになった。
オレが楽だからと居座っている場所。
ここで様々な変化がみられた。特にすれ違う事、これが多いような気がした。
皆、人生とは中々上手くいかないもののようだ。
ここから少しずつ自身に疑問が生まれてきたのだ。
気に入らない。納得できない。
識りたい。
第3者が関わってくることもあるようで、オレすらわからないオレは混乱した。
今まであったものを壊された、と感じた。
どうしようもない感覚に赫怒した。
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Unknown 「──何故こんなにも平然としているのか理解できねェ」 |
一方的な暴力。
久しぶりだ。いや、久しぶりというか用意された記憶の中には確かにあったが
自発的に怒りに身を任せて行動をとったのは初めてなのだろう。
それからオレは少しずつおかしくなっていったと思う。
自身に好意を向けてくれるヤツすら、遠ざけようとし始めた。
無条件に失くすことは、オレ自身と同義だが、オレから遠ざけようとする。
それは何故か、やはりオレが居る事で壊れるモノが多すぎた。
異能を行使しなくても
"なくなるものはなくなる"のだ。
つまるところ「自分が居るだけで失くす」そう感じてしまった。
自身に芽生える新しい感情の整理もしたかった。
やはり自分は侵略者なのだ。
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Unknown 「さようなら、寧々。」 |
この世界を失くす為に居るはずだ。その為に来たはず。
そうだ、オレはオレの行動原理に従って動く。理由は後でもいい。
そう、用意された記憶からでも、そこからの自分の生き方の中でも
あの願いを叶える。それだけが今のオレを動かすもの。
あの願いを。
──久しぶりに、会った。ぼんやりと覚えていた少年。
まだオレが夢の中に居るような心地だった頃だろうか…
まだ夢を見せてくれていた頃だ。
思い出した。海を初めて見た場所で出会った少年だ。
誰かが罵倒していたような気もするがそれはもういいだろう。
陽気に声を掛けてくる少年は、なんだか少し煩わしかった。
その場所は寒く、自販機がたくさん並んでいたので飲み物を買い与えた。
いらない方をくれてやったら、不味いと文句をいいながら飲み干していた。
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雨宮 「変なやつ…。」 |
なんとなく話しているとどうやらこいつも孤独らしい。
孤独だったとして。
どうしてここまでオレと違うのか。
何故笑って居られるんだ?
──わからない。
わからなかった。何も。
ただ楽しく居たい、人が好きだとハッキリ言える事が。
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Unknown 「(こいつみたいに、笑っていられたら。) …どうやったらそうなれるんだ?」 |
何度考えてもわからなかった。
明るく振る舞う事すら億劫に思えたし、どうせ居なくなってしまう相手であるなら
好きだとか嫌いだとか、そんなことは余計にどうでもよくて。
こいつも、どうしてか好きだと話してくる。他にも大勢好きな奴がいるらしいが。
どうして。なんで。またこの疑問だ。またオレのせいで何かこいつに起こってしまうのだろうか。
家に呼び、もっと話を聞こうと誘うとすぐに乗ってきた。
本当に危機感もないのだろうか。
そして話を聞く。変わった奴だと改めて認識する。
ただ本当に、何も考えていないような…交友関係が広いのか、誰も彼もを好きでいるようだった。
過去を踏まえた上でこいつはそうなった。ならば答えを探す為にやれる事は一つだけだった。
──オレはオレを識らなければならない。
オレに内包されたもの全て。
そこから知らなければならなかったのだ。
何を思い何をし、どうしてオレに飲み込まれたのか。永遠とも取れるような自身の中の時間。
それらは何を考え、生きていたのか。
自身を知る事でオレはオレを理解できる。
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Unknown 「──少しだけ、眠る。」 |
そういって勝手に意識を闇の中へ放り込んだ。
そうだった、家にそのまま残してしまった。あぁ、悪い事をしたかもしれない。
────そうしたおかげで、この少年についてわかったこともあったのだが。まぁ目が覚めた時にでも。
オレの意識はまだ闇の沼に放り込んだまま。