地面に飛び散った血のようなどろどろを見下ろす。
あのスーツ姿の胡散臭い男は、実践台……ウォームアップと言っていただろうか。
全て何時も通りだ。
形は違えど、何時も力を試される。
そして、能力が制限されていることに気づくのだ。
クロキの力ではない、本来のオマエはこの程度だと。
そう言われているように感じて、苛立ちが地面を蹴り飛ばす。
ここまでが何時も通りだ。
しゃがみこんで、地面に空いた穴を埋め戻す。
自分と同じように能力が制限されるものも居れば、逆に力を引き上げられた者もいるのだろう。おそらくは対等に戦えるように。
これも榊が言っていたルールのうちの一つだろう。
タクシーに揺られながら隣の女性を見る。
向こうで、何度か世話になっている花屋の店長だ。
もし困っていたら、と声を掛け同行することにしたのだが……。
振動に揺れるウェーブの掛かった髪。
いつもと変わらないにこやかな横顔からは動揺は感じられない。
もしかしたら、自分と同じようにこういった出来事の経験があるのかもしれない。
当たり障りのない感じで尋ねてみる事にしよう。
落ち着くはずなのに落ち着かないその香りを嗅ぎながら。
視界の上部に映るLOGINのアイコン。
気になっていたそれに意識を集中した。
Cross+Roseと表記され、仮想の現実が展開される。
眼の前にはいくつものアイコンが浮かぶ。
その中のCHATには赤い丸で4と言う表示が出ている。
ただ、それに触れるのはもうしばらく後にした方が良さそうだ。
LOGINを行う前、自分たちとは別の方向からタクシーが来ていたのが見えた。
ハザママップのみを確認し、早急に移動したほうが良さそうだ。
ある程度の距離を移動し、ひとまずは休憩をすることした。
簡易的な武具を作成する間、同行者には料理をお願いする。
……メリケンサックをリクエストされるとは思わなかったが。
クラフトの能力も制限されているようで、気休め程度の性能に仕上がる。
無いよりはまし、といったところか。
さて、保留していたCHATの方もようやく確認できそうだ。
VRのように、相手の姿が目の前に現れてメッセージを聞くことができる。
見知った顔、見知った顔、見知った顔、知らない顔。
メッセージはリアルタイムのものでは無いようなので、こちらからもメッセージを返しておく。
緊急時の連絡は取り難いものの、相手が忙しい時に強制表示されるよりはマシかと思うようにする。
続いて、リストの中からまだメッセージが来ていない知り合いを探しメッセージ送る事に。
天宮寺……その名前を選択しようとした瞬間、一面に赤い文字が表示され強制的にログアウトされる。
近づいてくる気配。
人、いや獣か?
Cross+Roseに表示されていた文字はDUEL。
つまりは、決闘を意味する――