――ここではない何処かの地平で
語り部の天使
遠い遠い世界の果てで、過去を語り紡ぐ天使。
いつかきっとたどり着く、一人の少女の成れの果て。
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『…あれから、何をしたのでしょうね。確かなことは、あの時、私は私となり、人の形を得て、人の望む”天使”を存在の核とした、それだけです。』 |
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『――さてさて、とはいえ、当時は問題が山済みでした、何せ、いくら取り込んだ記憶があるとはいえ、見知らぬ場所で、見知らぬ少女が、血まみれの状態で、よく分かっていない世界へと放り出されたのですから。』 |
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『有り体に言って、怪しい上にどうしようもない、路頭に迷う…という言葉を体現しておりました。』 |
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『しかし…捨てるモノいれば拾うモノもなんとやら…。私は拾われました。』 |
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『誰に?――決まっています、ヒーローに、ですよ。』 |
着の身着のまま。いや、そもそも着るものなど何もなかった生まれたままの姿で、瓦礫の中をさ迷い歩き、そしてどこかで私は眠った。そうして次に目覚めたときには、私は暖かで清らかな何処かの部屋のベッドにいたのだ。そこで…私は”ヒーロー”に出会った。
ああ、今でもよく覚えている。あの
”ヒーローになろうとしていた少女の姿”を。
私への贄から、他でもない、あのヒーローの手によって、最後に救われたあの少女が、…今、目の前にいて、そうして、あのヒーローの名を名乗り、私へと手を差し伸べた。
そのことが、私はひどく嬉しくて、そうして心苦しくて…。とても、自己を破滅させたいと、願わざるを得なくて…。けれども見守りたいと、支えなければと――あの時の私はそう想い…全てを偽り、少女と共に在る事を決めたのだ。
「はじめましてお嬢さん。私は”ヒーロー”。倒れていた君を見つけて、こうしてここに運んできたんだ。」
「――ええ、はじめましてヒーローさん。私は…”ティーナ”。水原ティーナ。」
「ティーナか。うん、いい名前じゃないかな?ところで…君、天使なのかい?」
「あっ…うん。そうみたいです、けど…名前以外、何も分からなくて。」
「ああなるほど…それは困ったなぁ…。仕方ない、じゃあ、思い出せるまで、ここにいなよ。」
「え?…でもそれ、迷惑じゃあ。」
「ハハハ!心配しない。ヒーローとは、困った相手に手を差し伸べるものだからね。
…ああでも、そうとなると、改めて自己紹介をしないとだね。私の名前は――」
――視界が歪む。ノイズが走る。思考の境界が曖昧になる。
夢見る少女
異能の街と否定の世界の狭間にて、祈りを捧げ、夢見る少女。
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『全く…なにをしているのでしょうね、”私”は。 やり方というのを考えて欲しいです。』 |
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「そうは言われましても、ほら、その分のブレーキは”私”の担当でしょう?」 |
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『それが一番困るのですけど…そもそも、こちらで主導を握っているのは”私”でしょうに。』 |
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「だって私の方が、此方での活動は適していますもの。なにより、此方の身体は”私”でなく私のものですよ?」 |
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『分かっておりますよ其れは。…けれど、もし次、なにかあれば私が出ますからね。』 |
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「…仕方がありませんね。ですが、その意味、分かっておりますか?」 |
――他の誰にも観測されない、自身の中でのみ完結した夢のような対話。
”ここ”において、より一層、近づいてしまったが故に、半ば同一化したその思考は、されども未だ、明確な差異ゆえに、その分割を成していた。されどもそれも、今現在だからこそ。差異が埋まり、そして自らが足を踏み入れたのであれば、その結末は当然…
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分かっていますよ。覚悟はもう、してきたのですから。 |
今はまだ、その答えを、その胸にだけ秘めていて――