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[1st Trigger ON]
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【夜明けと黄昏の記録 其の二】
イバラシティにきてからかれこれもうすぐ4ヶ月近く。
あれから俺たちはず――――――――――っと標的を探してるんだけどしっぽのしの字も掴めなかった。
目的があるとするなら間違いなくここの住人を片っ端から攫っていくなり、殺したりとかの事件が密かに発生してても
良いハズなのに、現地住まいの人たちでも友達ができたりとかで色々情報があったら提供してもらったりとかしてるん
だけどそれでも中々掴めない。
いったい何が目的なんだろうな、あいつ。
こっちの標的が全く捕まらない間俺たちが何をしてたのかっていうと俺はバイト、日明は学生生活。
イバラシティは異能が当たり前の街なだけあってそこならではのモノが結構置いてあって凄い新鮮。
一回だけ別の異能を使うことのできる石とか、異能を使った格闘技とか何か色々。
それからここにきてからもたくさんの人と知り合って仲良くなって、毎日がすっげえ楽しい!
日明もこっちにきてから外にいた頃じゃ考えられないぐらいに友達が増えて凄い嬉しそうだし楽しそうで、
それだけでこっちにきてホントによかったって思った。
今までじゃあ何をどうしても振り向いてすらもらえなかったり、それどころか酷い言葉を投げかけられたりとかいうことの方が多かったから。
特に歳の近い"チルドレン"相手だとそれが顕著で俺らと同期の子の一部とかぐらいしか話しかける奴がいなかったんだよな。大人の人はそんなことねえんだけど……
だから、イバラシティにきてからあいつの表情が目に見えて明るくなって、それだけで凄い俺は嬉しかった。
……正直なこと言うと、あいつの体のことを考えるとこのまま標的が見つからずにいて欲しいって気持ちもある。
きっとこのまままともに戦ったら、あいつは手術を受ける前に体が持たなくなって死んじまう。
元々日明は《蠱毒》の代償で体がもう限界まできていて、今こうして普通に生活できてるのが奇跡なぐらい――メンテを担当してる先生はそう言ってた。
あいつの親父さんもそれをわかってたから最後の最後まで頑張ったけど、結局返り討ちに遭っちまって日明が行かざるを得なくなっちまって……
うちの支部の人たちはみんなそれを何とかできないかって考えたけど、本部上層の考えが覆るところまでは行けなくて。
だからせめて俺か、俺じゃなくてもあいつと連携ができる子を同行させて欲しいって頼み込んだ。
そうしたら少しでもあいつが力を使う負担を減らせて、何とか手術を受けるまでは耐えきれるハズだって聞いたから。
絶対にあいつを生きて帰す。
だってまだあいつは18で、俺より年下で。誰かの日常を守る為にって、一番頑張ってきたんだ。
そんなあいつがたったの18年で人生が終わっていいワケがねえ。だから、俺はあいつを絶対に護ってみせる。
その為なら俺がどうなったって……って言ったらめっちゃくちゃ怒られたので二人で帰れる努力をします。うん。
……日明の視線が痛い。
いやホントに言われたからには頑張るから!俺も無茶しないように気をつけるから!
だからそんな疑いの目で俺を見ないでーっ!?!?
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雲林園荘の管理人である《カナリヤラボ》のルキュリヤ先生から連絡が入った。
なんでもコヌマ区の西の端にある廃遊園地付近で住民が次々行方不明になってるって話だそうで。
何でまたそんなとこで……って思ったんだけど、何でも何かに魅せられたのか何かで吸い込まれるように遊園地の中に
入っていくとかいう噂も出てる上に、標的の目撃情報も入ってるらしい。
これは明らかに黒だ。早速現地調査に向かおうと思う。
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【******】
――某日早朝、雲林園荘000号室《カナリヤラボ》にて。
「……情報は以上だ」
ラボ統括者であるルキュリヤ・カナリヤは、大きく映るモニターの向こうにいる二人の青少年に自身が得た情報を淡々と告げる。
「何か質問はあるか?」
『いえ。直ちに準備を整え現地へ向かいます』
「わかった。無理だと思ったら即時撤退を忘れるなよ」
『もちろんですよ、流石に相手が相手だし。慎重にいきます』
「お前が一番心配なんだよ月夜」
『全くですよ』
『ええー!?』
月夜が不満そうに声を上げるが、知らんぷりでやり過ごす。
隣にいる日明も怪しい目線を月夜に向けている辺り、ここについては最早共通認識と言っていいだろうか。
そのまま放っておいておくと二人で口論が始まりやれやれ、とルキュリヤは煙草に火を点ける。
「朝から喧嘩とは元気でよろしいことだがさっさと準備してこいお前ら……」
『す、すみません……』
『先生もちゃんと寝てます?
異能的に大丈夫だとは思いますけど連続徹夜とかは体に良くないですからやめてくださいよー』
「心配される程体の管理を粗末にしとりゃせんわボケ。ガキに心配される程落ちぶれてもない……
が、寝不足は否めんな。私は暫く仮眠するが何かあったら連絡は入れて構わん。
《彩なす天照(ライジングサン)》に関する情報はこちらとしても欲しいのでな」
了解、と答えが帰ってきた直後に回線を切断しモニターを消して椅子に深く腰掛ける。
自分で言うのも何だが自身の異能は休みたいだけ休む、ということができるのは非常に便利だと思った。
実時間30分の間に大凡人体に必要とされる7時間睡眠を摂ることができるのだから。
故に周りからしたら休んでいないように見えるのだろう、ある意味連続徹夜は間違ってはいないことに少し苦笑しつつ
眠りに入ろうとしたところ、別の通信が入り今度は手元の小型モニターを起動する。
「こちら《求道者(エア)》」
『例の監視対象はどうなっている』
「どうもなっていない。以上。私は寝る」
『忘れるな。【Code-Weekly's】は非常に危険な"境界越え"候補だ。
肩入れなどせず暴走の兆候があれば即殺処分しろ、いいな?』
「……」
『貴様の所属は本部であることを忘れるなよ』
ぷつりと、それだけ告げて通信は切れる。心底不愉快そうにため息をつく。
「本部の意向なんぞ知ったこっちゃねえっつってんだろが……」
ちら、と机に置かれた資料が目に映る。
それはあの二人がイバラシティに派遣される前日、こちらに本部から渡されたモノ。
"【Code-Weekly's】
以下の2名を上記コードで管理された特A級ランク以上の要監視対象とし、イバラシティ内にて
任務以外の自由行動を制限、24時間の監視体制を取ることを命ずる。
・《黄昏の射手》終日月夜 危険ランク:特A++ 異物特性:《贄》
精神の均衡が危うく異物侵蝕が他より著しい。頻発に暴走する可能性が高い為能力使用にも制限をかけておくこと。
常時は《夜明けの裁断者》より優先して監視されたし。
・《夜明けの裁断者》終夜日明 危険ランク:S+ 異物特性:《蠱毒》
特性による『境界越え』した場合の被害予測が計測不能。暴走の兆候が見られたら即殺処分されたし。
体内損傷率から放置で自壊の可能性もあり、常時監視の優先順位は《黄昏の射手》を上に置くこと。
双方共、『境界越え』の兆候が見られたらすぐ殺処分を行うように"
「…………」
ルキュリヤは不機嫌そうな顔で椅子から立ち上がった。
目を通すだけで吐き気がするその資料を手に取り、びりびりと思い切り引き裂いてやる。
「最初からあいつらの支部の意向なんぞ無視するつもりとは、随分なことだ」
引き裂いて丸めたそれを乱暴にゴミ箱に投げ捨て、パンパンと手を払う。汚いモノを触ったかのように。
「――私はもう二度と子供を道具扱いするつもりはない」
貴様らの意向など知ったことか。吐き捨てた後勢いよく椅子に腰掛け、眼鏡を外してアイマスクを身に着け
仮眠に入った。
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[進行値 15+3+3+1+1+3=26]
[次回イベント発生値:35]
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