「オレはお前の言う【ギンコ】ではない。オレは虐げられし者達の味方であり、イバラシティを侵略する者だ。…お前が何者かは知らんが、オレに仇成すものなら容赦はしない。…精々俺に殺される前にギンコとやらを見つけ出す事だな。」
一通りcrossroseを通じて送られてきたメッセージを返し終えたところで、最後に届いた返事。
ナンバーは486。それは真っ先に安否確認のメッセージを送り、そして最も返事を待っていた相手だった。
だが、その送り主は誰よりも慕う先輩。深淵見銀子ではなく。
敵意と殺意をその目に宿した、見知らぬ獣人だった。
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チホ 「「……先…輩…?」」 |
画面を見つめ、呆けた様に声を漏らす。
「…に、にひひ。う、ウチ…番号打ち間違えちゃった…?」
数秒後、我に帰るとそんな事を呟き、番号を確かめながら深淵見へメッセージを送る。
だが、先程映った画面の獣人の既視感のある銀の毛並みは皆藤の目に焼きつき、彼女はそれを振り払う様に一心不乱にメッセージを打ち込む。
「にひ、にひひ。うわー、やっちゃったなー。もーよりによってギンコ先輩の番号間違えるとか、ウチ慌てすぎっしょ、もー…」
ああ。違う。止めて。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めたくない。
父、母、弟、バスケ部員たち、岬、恋文、不動、双海、鐵、怒気、奈切、真月宮、守屋、終夜、不死沢、瑠璃井、水原、白妙、百地、東堂、雪瀬、天宮寺、黒木、十ヶ瀬、水月、藤見、剣野、黒月etc…
無論皆藤には、他にも幾人もの掛け替えのない存在がいる。
だが、深淵見は違った。
彼女の存在は、皆藤にとって謂わば扇の要、或いは、塔の礎とも言える存在だった。
皆藤が深淵見と初めて出会った、『あの日』の出来事。
それこそが現在の皆藤千穂という存在が、明朗快活な親しみやすい少女として今日まで続いてきた理由。
しかしそれも。その根幹を決定付けた『あの日』も。アンジニティによって作られた嘘だった。
「にひひ…先輩がアンジニティなワケないっすよね。」
「でももし、もしもですよ?先輩がアンジニティなんだとしたら…」
「……今のウチは、一体何なんですか?」