「異能力のことで何か悩みがあれば、俺のとこに来るよーに」
羽柴は、"施設"からやってきた異能カウンセラーだ。
最近問題視されてる未成年の異能の暴走や、発現による副作用のフォロー、
制御の仕方、心理的なカウンセリングをするためにうちの学校へ配属されたのだという。
羽柴
異能矯正センターから来た異能カウンセラー。
ヘビースモーカー。
カウンセラーというから真面目そうな人間が来るのかと思っていたが、羽柴は全くの真逆だった。
癖の強い髪はいつもボサボサで、着ているシャツはパジャマのように皺だらけでよれよれだった。
いつもそんな身なりなもんだから、問題児の俺と張り合えるくらいには、他の教師に注意されていた。
「邪魔すんぞ~」
羽柴は"あの日"からやたらと俺に絡んでくるようになった。
仕方ないといえば仕方ない。それがこいつの『仕事』なんだから。
「いやーここ校内禁煙だろ?肩身狭くってな。いやいやラッキーラッキー」
そう言うなり俺の隣で煙草を取り出して吸い始めた。
外とはいえ、一応屋上も校内に入ると思うのだが。俺も授業をサボってるのだし、特に咎めることもせず、ただ黙って風に流される煙の軌道をぼんやりと目で追った。
もう散りかけ、緑の目立ってきた桜が校庭を囲うように並ぶ景色が眼下に広がる。
体育の授業だろう、どこかのクラスがサッカーをしていて、掛け声や笛の音が遠く響いている。
「いいとこだな、ここ。もうちょっと早く着任したらここで花見できたなあ」
「………」
「よく来んのか?」
「……うぜ」
校庭を見下ろしたまま小声で、しかしハッキリ聞こえるように言ってやる。
羽柴は俺の態度を気にも留めず、こちらへ歩み寄ってあろうことか隣にどっかりと胡坐を掻いた。
「ンだよ、暇なんだろ?授業サボってたこと黙っててやるから、話し相手になれよ~」
「そっちこそ、煙草吸ってたってチクってもいいけど」
「うっわ、かわいくねー」
不満げな言葉の割にはケラケラと笑い、煙草を再び口へ運ぶ。
苦手なタイプだ、と眉を寄せる。こちらの意思を飛び越えて距離を縮めてくるような相手。
それでなくても、人と関わるのを避けているというのに。
「なあ美和。別に無理して学校来る必要ねーんだぞ」
「学校行ってるってことにしてねーと、親父に不審がられるんだよ」
「結構親孝行だよな、お前」
「……別に、面倒くさくなんのが…面倒なだけ」
「親孝行だし、強ェ奴だよ。他人のために動けるやつってのはさ」
「………」
「結果はああだったとはいえ、お前がしたことが間違いだとは誰も思ってないよ」
羽柴は淡々と続ける。でも、無理に感情をこめない様にしているようにも聞こえた。
「美和。学校に来る気があるなら、ここで俺と話をしよう」
俺は―――。
「まずは、俺と仲良くなることから始めようぜ」
二度と、人の形を忘れちゃいけない。