「なるほど、検査の結果を見るにお前の異能は変化型。
でも変化できるのはどうやら鳥獣だけ。魚や虫への変化は不可……と」
夕陽の差す部屋で、羽柴の言葉と紙にペンを走らせる音だけが響く。
美和はベッドの上に座り、腕のかさぶたを爪の先で掻きながら、ただ黙って話を聞いていた。
自室に椅子なんてものはないので、羽柴は床に直接座って美和を見上げている。
「怪我の具合は?」
「……俺は、平気」
少し嫌味っぽく一人称を強調した。
自分の能力によって怪我をした被害者――その一人は今まさに目の前にいる。
彼の腕や首に巻かれた包帯、体中に未だ残る痣が自分のしたことの重大さを物語っているようだった。
だから、自分が痛いとか辛いとか言うことが筋違いなのは、十分わかっていた。
流石に床に直接座るのは疲れるのだろう。羽柴は軽く体勢を直して小さく息を吐いた。
「突然のことで、一番驚いているのがお前ってことは俺だってわかっているつもりだ。
それに、こういう事は珍しくない。お前以外にも、そういう子供をたくさん見てきたよ」
そう言ってペンを動かすのをやめ、手帳の間に挟んで床に置くと真っ直ぐ俺を見てきた。
俺はその目から逃げるように顔を逸してしまう。
「下手したら、人殺しになってたかもしんねーけど?」
「でもそうはならなかった。俺が止めたからな。今後も俺が見てるから大丈夫だ。
能力のコントロールができるよう、卒業まで協力する。
キツイなら学校にはしばらく来る必要もない……まあお前はもともとサボりがちだったけどな。
ただ経過見るのにちょくちょくこっちに来る。親御さんも了承済みだ。
宿題も持ってくからちゃんとやれよ、引っ越すとはいえ一応高校には行くんだろ」
「………そういうの、"施設"の人間がやればよくね」
重い口からでた施設という単語――通称、異能力矯正センター。
近くの島にある施設で、《能力制御と社会復帰の支援》を謳っており、能力の暴走により被害を出したり、
人格に問題のある未成年の能力者が一定期間入所する場所だ。
――本来ならば、俺もそこに送られるはずだった。
「ばか言え。俺が施設の元職員で、直接未成年能力者のケアができるからって、
施設送りを止めるよう言ったんだぞ。あんなとこ行っても、お前なら能力を抑えつけられて余計暴走するのがオチだ」
「……そりゃどーも」
もちろん施設に行きたかったわけじゃない。
ただ自分の能力のせいで大怪我をした教師に、自分のメンタルケアを任せるというのは居心地が悪いというだけだ。
「俺のことなんてほっときゃいいのに」
「ま、こればっかりは俺の性分でね」
羽柴はなんでもないというようにそう言いのけ、床から立ち上がった。
「とにかく、今は怪我を治すことに専念しろよな。能力の制御はそれからだ。
後悔してるなら、この先また後悔しないよう俺の言う通りやってみるんだ」