妙名 浹
ワカナ ショウ
妙名家の次男。涼と双子。異能は《双貌》
様々なものを視ることができる。隠れたもの、音、熱、空気の流れ、chを合わせられればいろいろ視える。
妙名 涼
ワカナ リョウ
妙名家の長女。浹と双子。異能は《双貌》
大事なものほどよく視える。普段は情報に埋もれすぎないようにサングラスが手放せない。
家族のことはとても好き。
おれをただ愛してくれるから。
こんなに冷たい息子を、弟を、ただただ愛してくれる。
* * *
おれの兄弟は三人いて、二番目の兄と姉は双子だ。
お互いのことが大好きで、誰より信じていて、誰より理解していて、誰より特別なんだって。
異能もふたりでひとつというか、掛け合わせることのできる同じものを持っている。
合体技まで持ってるとかうちの兄姉はほんとにかっこいい。
その合わせ技のひとつが、記憶を視ること。記録のほうがただしいか。
録画した監視カメラのように、そのひとの目に映したもの、耳に入った音を確認することができるそうだ。
相手に抵抗がまったくないことが前提らしく、その能力はおれぐらいにしか使われない。
ふつうは自分の行動すべてを曝け出すことに抵抗感を覚えるらしいよ?
おれにしてみれば、なんでかわからない。
ただただ愛を注いでくれるひとになにを隠すものがあるのか。
えぐい能力だと、一番上の兄がこぼしたことがある。
便利だとは思っているけど、品のいい長兄がわざわざその表現にした意味はよくわかっていない。
*
「ミツ、今日も視せてね」
兄姉と記憶を共有するのはおれの日課だ。
ふたりの視線が、中に注がれるのを感じる。うまく表現できない感覚だ。
頭の中を覗かれるのはとくに不快ではない。
他人にじろじろ視線を向けられると地味にむかつくから、たぶん、家族限定だけど。
おれがまだ赤ん坊のころ、なぜ泣いているのか分からなかった兄姉がおれの頭を覗いたのが最初だという。
大体は視界にもはいっていない不快感で泣いているばかりだったのだけど、
まだ言葉にして伝えられないおれ相手にはそれなりに重宝したらしい。
話せるようになってからもそれは続いた。
ちいさいころのおれは異能の加減がうまくなくて、すぐに倒れたり不調になったもので。
おれがいつどこでなぜなにをしてどうケガをしたのか。
不調のときと普通にしていられるときはどう違ったのか。
ふたりはおれの一日の行動を確認しては記録し、なにかあれば報告している。
おれの覚えていないこともふたりは覚えているので、おれ以上におれの行動に詳しい。
異能の制御はうまくなったと思う。
それでも毎日兄姉はおれの記憶を共有する。
いつまで?知らないよ。
だってこれはおれたちの"普通"で"当たり前"のことだ。
「今日はマガサにいたのね、寒くはなかった?」
「明日は今日より寒くなりそうだから、同じところにいくならもう一枚上着を持っていくんだよ」
おれの見たものと音は拾えても、そのときの感情や思考までは拾えないそうだ。
三人で顔をつきあわせながら、一日のおさらいをしていく。
忘れやすいおれの頭に、思い出が残りやすくするためでもあるらしい。
もしおれの頭から抜けてしまったとしても、ふたりがいれば安心なのだ。
* * *
ずくり、頭の奥のほうが鈍く痛い。
耐えられる程度の痛さがじわじわ続くってあたりが腹が立つ。
どうせなら一回めっちゃ痛いで終わらせてくれたほうが楽なのに。
今回は18日分だったらしい。
"イバラシティにいるおれ"のアレからの思い出が頭の中に流れ込んできた。
毎日整理してもらっているおれにしてみれば、もうちょい小分けにして寄越せといいたい。
いやでも一回にもらわないと時間喰うのか、それも困るな。
それよりも。
前回、いや1時間前か。そのときも頭をよぎったこと。
その予感は正しかったのだなと、今、確信を持った。
『イバラシティのおれにはハザマの記憶はない』
『イバラシティのおれにはハザマの記録もない』
兄姉は一度もハザマにいたときの記録に対しておさらいしたことがなかった。
おれがここにいるってことを知っているなら話題にしないはずがない。
おれが猫を見たなんて些細なことは話題にするのに、
グロテスクなヘドロと殴りあったのはスルーとかある? ない。
そうか、ここのことは家族に伝わらないのか。
なにをしても。
なにをされても。
あれ?
え、なに、それ、いいのか?
どうしよう?
確かに家族がこの変な遊びに巻き込まれなければいいとは思っていた。
思っている。
でも。
生まれて17年め。
はじめて兄姉に秘密にしていることができてしまった。