
――ウォンside――
1年目――
まだ、生活としては良かった。
歌い、支給されたものを、侍女に食べさせてもらって。
不便もなく、ただ、意思もなく。
けれども――そう、好きな歌を好きに歌い。
また、侍女との会話も。父母から届く手紙を聞いてる間も。
心が休まった。
見世物でも、それに称賛と、感嘆の声が多く。
また、少女にはまだ。意思と感情と交流があった。
2年目――
仲が良かった侍女が、いなくなった。
別の場所に行ったのだと、言われた。
父母との手紙も聞くことが少なくなった。
次の侍女は、そんなに”優しく”はしてくれなかった。
王と共に、本妻である第一皇后が、よく見に来るようになった。
他の側室を連れて――
少しずつ、聞こえる”モノ”が変わっていった。
3年目――
嫉妬と、罵倒と、誹謗と、中傷と。
ソレ以外を聞かないことのほうが少なくなった。
王からも、歌え、とだけしか言われない。
前の侍女は、父と母は? と、聞いても。
……お前が知る必要はない、ただ歌え
としか返ってこない。
少女の”歌”は、それしかないやつが
醜く、縋るように、王に媚びながら歌っているのだと
称されるようになった。
4年目――
まともに食事が与えられなくなった。
今の侍女は必要最低限にしか来ない。
聞こえる耳は――いろんなものを拾ってしまうから。
だんだん少女の心は――
刻むだけのものに成った。
少女は”コレ”に近づきつつあった。
5―――
6―――
7――――
時はただただ、過ぎていく。
【to be continued】
―― 右鞠 side――
――おい
そんな視線だらけの世界で。
声をかけてきた”ヤツ”がいた。
――お前、”器”、なんだって?
何の話をしているのか、私にはわからなかった。
聴こえているが反応するのも興味がなかったので
そのまま歩く。
――おいおい、話を聞けって
道を塞ぐようにして立ったのは
狐――? いや、違う。
獣。少し、赤い、模様が頬や額に付いている獣の仮面を付けた
”女性”だった。
女性だとその時判断したのは、胸部の膨らみにほかならない。
――お前、つまんないだろ?
つまらない。つまらない?
つまらないなんてことはない。まずそれがなんなのか、理解ができない。
――わかんないか、空っぽだもんな、お前
まぁ、合ってる。合ってるけど――
聞いてる理由もないので、あるきはじめようとして。
――お前、狙われてるぞ?
そんなことを言われた。
――家族も、死ぬぞ?
足を止めた。
――お、空っぽなのにそこは反応するんだな。やっぱりガキでも人間か。まだってところだな
母が嫌いなわけではなかった。
父も、死んじゃえばいいと思うほどでもなかった。
なぜなら、二人は私にどう接していいかわからないだけで。
愛していることには違いない。
捨てていないのがその証拠だと、この時期の私は思っていたのだ。
――お前はまぁ、そこそこ空っぽだ。もう少しできっちり完成ってところだな
何を言っているかさっぱりわからない。
わからないけれど――
――器としては最上級。だからこんなにも”視られている”
どうやら、彼女は。
――だから、オレが守ってやるよ。その代わり、お前の”中”をくれ
私を視ている”奴ら”と同じで。
けれど、それらとは違う――”使える”ものであるのがわかった。
だから頷く。
――は?
あまりにスムーズに行くのが、この女には不思議でたまらなかったのだろう。
でも、私には都合のいい話だった。
ある意味で――”このままなくなってしまえばいいのに”
その願いが叶うのだから。
――へぇ? まぁ、いいや。んじゃ、”■■■■”だ、よろしくな
小学1年のときの、話だ
【to be continued】