
―――前回「ここ」を訪れてから、三週間弱。
記憶が継続している。この悪夢は続きモノだから。
考えることを止めてはいけない。知っていることを整理してみよう。
だいたい20日周期で続き物の明晰夢を見ているらしいということ。
この世界は、二つの世界が交わる場所であるということ。
一方は、イバラシティの住人達。もう一方は、アンジニティからきた御一行様。
私たちは文字通り、未来をかけて戦っている。
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透 「……なんて言われてもさー!」 |
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透 「実感なんか持てないんだ。持てっこないよ」 |
悪いエイリアンが攻めてきたぞ!なんて、やめてくれないかな。
チープなSF映画じゃないんだから。
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透 「私の生きてきた”現実”は―――そんなに軽いものじゃない」 |
疑問を持つことを止めてはいけない、とも思う。それにさ、
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透 「戦えって言われれば戦うの? どうして?」 |
「創造主さま」を名乗る誰かは「争え」と言った。実際に、争う物音がそこかしこから聞こえてくる。
動かしようのない事実として、ここには危険と暴力が満ち溢れている。
別世界からの侵略。私たちの街に巣食う怪物(ナレハテ)の群れ。
たったひとつの命を懸けた、最初で最後の防衛戦争。
そして、何より。
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透 「友達の半分が敵。親兄弟さえ信じちゃいけない?」 |
この世ならざる侵略者たち。彼らは普段どこにいる?
―――答えは、私たちのすぐ隣に。
姿かたちを偽って、私たちの大切な人たちのフリをしているそうです。
そのことも自分で確かめたい。確かめないといけない。
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透 「………………………」 |
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透 「まあ」 |
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透 「それはどうでもいいとして」 |
そう。
私にとってのシリアスプロブレムはそこじゃない。
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透 「しらくちゃん」 |
誰よりもかわいい私の大家さん。身勝手な私の気持ちを受け入れてくれた人。
君の名前を呼ぶだけで、太陽みたいな笑顔を思い出せる。ほんの少しだけ強くなれる。
怪物たちが我が物顔でのし歩く世界。赤錆色の空が続く場所。この街のどこかに君がいるはず。
今すぐ会いたいけれど、ちょっと無理そうならしばらくは我慢してもいい。
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透 「君を探すよ」 |
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透 「だって、私―――」 |
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透 「ヤバかわいいじゃんさー!!!!!!」 |
廃墟と化した街は、ほんの少しの距離を進むだけでも時間を取られる。
ささくれだった材木の棘や金属片に触れて傷を負えば、どんな雑菌が入ってくるのか想像もつかない。
行く手に立ちふさがるのは、数えきれない怪物の群れと、愛おしい私の侵略者たち。
鮎喰 透の17年のすべてを賭けても、たどりつける保証はない。
今いる場所にとどまって、嵐が過ぎ去るまで震えて待つのが一番賢いこともわかってる。
みすみす命を捨てるような真似をするなんて、パパもママも悲しませることになる。
でもさ、私は恋をしたんだ。
君のためなら、私はどこまでもおバカになれる。
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透 「かわいいって言ってほしい!」 |
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透 「おそろいの! 青い瞳に映してほしい!!」 |
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透 「白く透きとおるこの膚を! 優しく撫でてほしい!!!」 |
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透 「亜麻色の髪! 超綺麗!! 君の手で梳いてほしい!!!!」 |
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透 「背骨が折れちゃいそうなくらい!! 抱きしめてほしい!!!!!」 |
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透 「もう!! なんかもう全身舐め回すように眺めてほしい!!!!!!」 |
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透 「チャームポイントをさあ! 100個くらい言ってほしい!!!!!!!」 |
あわよくば100000000個くらい言ってほしい。
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透 「よね!!!!!!!!!!!」 |
だって私はかわいいから。君の自慢の彼女ですもの。
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透 「しらくちゃんほどではないけどさー!」 |
旅の途中で、たくさんの色を集めておくね。
赤と黒に染まった世界を、私の色彩(えのぐ)で塗り替えるために。
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透 「願わくば、旅の終わりに」 |
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透 「ハッピーエンドが待っていますように」 |
大きな声を出したせいで、何か良からぬモノが近づいてくる気配がする。
かくして今宵も冒険がはじまる。