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陽炎王
食い荒らす者たちが鳴いている。鳥ではない。もっと凶暴な化物だ。
彼らは死骸を喰らっている。巨龍の死骸を骨の髄まで喰らい尽くそうとしている。
鼓動の途絶えた胎内で聞こえるものは、彼らの耳障りな羽音や咀嚼音ばかり。
私はそれが堪らなく不愉快で、どうしようもなく憎たらしくて仕方が無かった。
母の胎を突き破ったのは、彼らに自分の存在を知らしめたいと思ったからだ。
私は出来立ての肺でぎこちなく息を吸い込み、殺意に満ちた産声の咆哮を張り上げる。
邪魔な臍の緒は食い千切り、脳に刻まれた本能を頼りにして耳障りな羽虫共を噛み殺す。
連中を二、三匹も殺せば次第に濡れた羽も乾き、私は陽炎に染まる空へと羽ばたいた。
地を見て、空を見て。それから私はようやく自分が生きている事を知った。
この身に母の面影を宿した自分だからこそ分かる。亡き母はきっと、
世界から否定されて当然の怪物だったのだろう。全身に打ち込まれた無数の鋲も、
あまつさえ脳天に突き立てられた聖剣の刃も。それだけ多くの者が母を恨んでいた証だ。
私は世界から否定され。生まれる事さえも否定された無垢な孤児。
どれだけ醜い姿に生まれても。それでも私は、良い子になりたかった。
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…
……
──イバラシティ陣営 ベースキャンプにて──
フクシャ
龍の角と尾を生やした赤い髪の亜人少年。
ドルイドとして騒乱戦争に参加している。
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伏砂 「ここがハザマ…ですか。ずいぶんと荒んでいますね。」 |
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伏砂 「まずは目標を確認しましょう。私たちはより多くのアンジニティを倒して影響力を上げ、 彼らの侵略を阻止しなければならない。建前はそうですね、マスター。」 |
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伏砂 「ですがマスター。それでは根本的な解決には至りません。 私達の目指す目標は──。」 |
………。
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伏砂 「…マスター!呆けている場合ではありませんよ。 ここは戦場。一瞬の油断が命取りとなります。」 |
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晴太 「……あ、悪い。こんなの見るの初めてで、気が動転してた。」 |
深淵見 晴太
相良伊橋高校1-1。風紀委員。
生真面目な性格だが、感情的になると毒舌になる。
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晴太 「…あれがハザマの怪物か。気味が悪いな。」 |
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伏砂 「可愛そうですが、襲ってくるなら追い払うしかありませんね。」 |
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晴太 「強化された異能を確かめてみる。 俺一人で戦うことになるが、構わないか?」 |
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伏砂 「構いませんよ。これで負けたら笑いものです。」 |
…
……
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利用できるものは利用するだけだ。
私はアンジニティに属さない、イバラシティにも属さない。
私はどちらも見捨てない。一つを切り捨てることなんて出来ない。
気狂いと罵られようとも構わない。裏切り者と見限られても構わない。
二つの世界を救う。その為ならば。
イ ン サ ニ テ ィ
──私は"傲慢たる敗者"になる事さえも厭わない。
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