※ イ バ ラ シ テ ィ の 記 憶 ※
~about. 子子子子こねこ~
【あらすじ】
河川敷で見た夕日をテーマに、ガラスの贈り物を作ることになった。
【ログ】
http://lisge.com/ib/talk.php?dt_p=742&dt_s=303&dt_sno=13058013&dt_jn=1
http://lisge.com/ib/talk.php?dt_p=740&dt_s=303&dt_sno=23503013&dt_jn=1
Gallé-工房スペース
砂利石が敷き詰められた工房スペース。
店舗に展示されている品はすべてここで作られる。
大きなガラス炉やバーナー備え付けの作業机、
ガラス材料や工具類が散らばっている。
子子子子こねこは、ガラス工房Galléに来た客の一人だった。
小学生が1人で来るのは珍しかったが、
よくよく考えてみれば見た目が小学生の客なら沢山いた。(なんで?)
そういう意味では、いつもと同じ。
代り映えのない出会いと言っても良いだろう。
そんな少女の誕生日に、今回「夕日」をプレゼントとして贈ることになった。
河川敷で交わした売り言葉に買い言葉…のようなものが切っ掛けだったが、
たまにはテーマの決まった作品を作るのも悪くはない。
Step.1 段取り
必要な道具の用意や設備の暖気。加熱で柔らかくなっている僅かな時間で作業するため、道具は机周りを集中させる。今回は酸素バーナー、ガラス棒、芯棒、鉄ヘラなど。
あの子が最初に店に来たのは11月の上旬頃だった。
確か花瓶を買いに来て、その後に母親と一緒に来た。
その時に、ビー玉から桜の髪飾りを作って渡したのを覚えている。
あの時は仲の良い親子ぐらいにしか思わなかっただけに、
後に河川敷で聞いた話で自分は胸を刺されることになった。
あの母親の寿命は、そう長くないらしい。
Step.2 加熱
バーナーでガラス棒を熱して大まかな形を整える。最初は遠くから予熱するつもりで、少しずつ近づけていく。最終的に5cmほどの距離を保つのが良い。
自分の寿命が分かる異能。
こねこの母親の異能は、自分に残された時間を知る砂時計のようなものだった。
その砂が残り少ないことを、彼女の一家は知っていた。
それを知った上で、普段どおりの生活をしている。
正しいと、思う。
その死が避けられないものであるならば。
Step.3 成形
柔らかくなったガラス棒を工具や手で負荷をかけて変形させる。曲げたい部分を加熱して両側から押したり、細くしたい部分にヘラ当てて素早く回すなど。
いつか訪れる大きな不幸を知ったとして、
辿ってはならない筋書きというものがある。
大きな不幸、この場合は母親が死ぬことだ。
のちの不幸を知ったからと言って、その事ばかり考えるようになれば、
その家族の世界は母親の死を中心に回るようになるだろう。
結果、きっと家族全員が不幸になる。
地獄に落ちる趣味がなければ、
ある程度は悲しみを吹っ飛ばして生きていかなければいけない。
Step.4 加飾
ガラス棒に融接する形で装飾を追加する。今回はランプを作るため、電線が通る管を色付き硝子で作る。けがき針などで模様を描くのもこのステップ。
あの子はそれを知ってか知らずか、陽気に前を向いて生きている。
菓子職人としての志や、誰ぞの嫁さんになるという夢を楽しげに話す。
あの子の母親も同じぐらい強い人に見えた。
ただ、父親はあまり家に帰らなくなったそうだ。忙しいからとも聞いたが。
正しい行いを体現していく妻と娘を見たことで、
父は、自分の弱さを知ってしまったのかも知れない。
しかし。
自分の弱さを克服せず、妻や子に寂しさを背負わせることが
彼の愛した妻の晩年であって良いのだろうか。
Step.5 冷却
今はまだ母親が生きていて、あの家族は幸せであるのに。
これからガラスのような七色に移り変わるこねこの世界の中で……
今あの子が幸せである事は、変わらない思い出だ。
芸術家の仕事とは、形なき想いを形として作品に現すことである。
それならば、形のない幸せを形として残すことだって出来るだろう。
あの家族と触れ合った職人の端くれとして、
彼女が幸せと言った時間を夕陽に閉じ込め、贈ることにする。
硝子灯:夕焼け蕩色
ゆうやけといろ。夕日を表現した円弧の中に3色の枝が連なり、先端に花弁形状の灯りがつく三連灯の卓上ランプ。LED電球対応。
今お前が幸せだった事は、変わらない真実だ。
お互いどこへ行っても。姿が変わっても。
こねこに言ったこの言葉の重みを、
俺は後のハザマで、自分自身への言葉として体験する事になる。