穏やかな微睡から目が醒めるような感覚。
見ていたのは、とても、とても幸せな夢──
──友達とおしゃべりしたこと、シェアハウスの住人と過ごした生活、
私の歌がたくさんの人を笑顔にしていたこと、テスト勉強が大変だったこと、
生徒会として働いたこと、イノカク部でたくさんの仲間と会ったこと
それからソラコーの友達みんなでゲームをして、遊んで……
それから
ハオルイとバロールが、私に食事を作ってくれて、舌が火傷しそうなほど美味しくて、
彼らが、私の食事を"美味しい"と笑って食べてくれて───
──違う。
本当の私は、あの日に、とっくに……
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神の力 「ああ……何故なのですか…… ──何故、神はこんなにも残酷な仕打ちを…」 |
灰色の世界を幽かに照らす、頭上の光臨。僅かに黒く染まった、6対の翼。
それら全てが、"群条エナ"という存在は偽りであり、ワールドスワップによって生まれた"歪み"だと示していた。
私の本来の真名、『神の力』。
──神によって作られた被造物であり──楽園を追われた天使の一体。
神の意思を代行するために作られた熾天の存在。
だが、もはやそうではない。
私は、再び下された"地上を罪と共に焼き払え"という使命に逆らい、アンジニティへと追放された。
アンジニティ。堕天した者。自我を持った道具。
棄てられた世界での日々は、決して穏やかで幸福とは言い難かった。
暗澹とした光の差さぬ空。歪に壊れた建造物の残骸。終わりのない無限地獄。
だが、そんな世界でも──棄てられた者たちとの──確かな絆が在ったのだ。
狂ってしまいそうな時間の中でも、彼らと共に歩んでいれば自分は自分でいられる。
そんな、私の居場所が。
彼らだけには、せめて、暖かな陽だまりの中に居てほしかった。
だからこそ、協奏の世界への侵略を……私は受け入れた。
否、受け入れようと言い聞かせたのだ。
これは食物連鎖のようなものだと。生存競争なのだと。そこには善悪はないのだと。
「──でも」
イバラシティ。協奏の世界。
そこでヒトとして──群条エナとして過ごした、陽だまりの様な時間は、
私が欲しくて、ついに手に入れられなかった、夢の景色だった。
「ごめんなさい、バロール。ごめんなさい、ハオルイ。ごめんなさい──」
否定された同胞たちの名を、罪を吐露するように独り言ちる。
こんなにも胸が苦しいのに、涙は一粒たりとも出なかった。
「ごめんなさい──"エナさん"」
そう呟くと、心の中で『もう一人の自分』が、たしかに頷いてくれたのを感じる。
愛する者達の世界のため、戦うと。
「私は……いえ」
「"私たち"は───!!!」
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神の力 「───協奏の民を」 |
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エナ 「───私の友達を」 |
──────見捨てたり、できません!」」