■4回目
気が狂いそうだった。少し前までは。
今は比較的落ち着いて、この文章を書いている。
これが4時間目、の筈なんだ。
でもそうじゃない。色んなことがあった。
あったように感じる。そう覚えている。記憶している。
幸いなのは、杏莉に会えたこと。
“向こう”での記憶の中でも、杏莉に関してだけは不安になることが
ひとまずは無かったと言うこと。
それだけで凄く安心できた。
自分はまだ、自分であると確認できた。
こんな異常な状況下だけど。まだ、頑張れる気がしてきた。
でも、自分に余裕ができたからだろうか。
妙に引っかかることがある。
美鳥夜の語った、『星になった英雄の話』。
それは、端的に言えば戒めの話。小佐間の異能の発端。
盲目ながら世界を“識る”男と、命の流れを“視る”種である女。
交わる筈のない二人が交わり、そして生まれた子供。
子供は、小さな里で生まれ、密やかに、けれど健やかに育つ。
子供は両親の異能を共に受け継いでおり、類稀なる才能と知性をも
兼ね添えていたが……
それ故に、異能を必要以上に使うことは無く。
けれど世界はやがて戦乱の火に焼かれ。
里を護らんと力を振るった子供は、ただ、大事なものを護るため
賊と戦い、獣と戦い、魔と戦い、果ては天使とも戦って。
その悉くを討ち滅ぼしたという。
いつかは倒れると誰もが思った。
敵は多く、強大で。味方は少なく、脆弱で。
まして子供が振るう力は、“あるべき姿”とは真逆。
望むだけで、願うだけで、端から“死”を撒き散らしたという。
無理を通し、無茶を承知の上で、自らを省みず力を振るい続け、
しかし子供は結局死ぬことは無く。
そして、子供は最後に“星になった”。
この世の理から逸脱し過ぎたせいで、生きたまま放逐された。
死体も残らず、魂も何もなく。
だから子供の両親は、夜に輝く星の中で一等綺麗な星に名を付け、
いつか帰ってきても良いように、伝え続けたのだと言う。
手を振るだけで“死を与える”。そんな異能が本当にあるだろうか?
そう問われたら、俺はこう答えるしかない。
ある。
きっと、俺にも、できる。
『アンジニティ』。
聞こえてくる言葉。この世ならざる存在。
もし、俺が、その
(日記はここで途切れている)
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ミツフネ 「……ミトリヤ?」 |
ふと顔を上げ、ぐるりと周囲を見回す。
ついさっきまで近くに居た筈の妹の姿が無い。
日記を書くのに集中しすぎていたせいか、彼女がどこに行ったかも分からない。
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ミツフネ 「ミト、……おーい? どこ行った??」 |
周囲を探すも、彼女の姿は無く……
代わりに見つかったのは、紙切れが一枚。
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ミトリヤ 「“お友達に会ってきます。すぐ戻ります”」 |
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ミツフネ 「なっ、あの馬鹿……! 何を勝手な真似を──!?」 |
慌てて妹の足取りを探る。
しかし手紙の周囲には、本来ある筈の足跡が一切見つからない。
その後もあれこれと周囲を探し続けたが……
結局、この一時間の間。
小佐間 美鳥夜と小佐間 御津舟が再会することは、無かった。