本当にあれで良かったのか、私には分かりません。
　私は彼に学ぶ事にしたのです。
　この世界の事、この国の事、私の村に起きた事。

　彼は元々帝都に住んでいる魔術師でした。
　魔術師は魔術師の家系に多く生まれ、そして優秀な魔術師は長く続く家系から生まれる事が多いそうです。
　彼は長く続く優秀な魔術師の家系でした。
　魔術師として生まれ、国に仕える事が決まっていた彼は、魔術についてたくさん勉強しました。
　優秀な家系しか手に入れられない資料や、国に仕える魔術師しか閲覧できない図書館を利用し、魔術について、世界について学んだそうです。

　そして彼は推測を立てました。
――世界はここだけではないのではないか。

　そして彼は、帝都で禁止されていた召喚魔術へと手を出したのです。
　召喚魔術は代償を元に何かを作り出す魔術だと考えられていました。
　何かは生物である事も多く、神を冒涜する魔術だとして禁止されていたのです。

　ですが彼は作り出すのではなく、本当に召喚しているのではと考えたそうでした。
　その考えに至った理由も聞いたのですが、魔術について何も知らない私が理解できる理由ではありませんでした。

　そして彼は帝都を離れ、身を隠しながら研究を続けていたそうです。

　帝都では禁忌を犯したものとして、異端の烙印を押されて殺されかけたと言っていました。

　そして同時に彼は言ったのです。

――異端なんて本当は存在しなかった。

　異端、それは姉からも聞きました。
　姉から聞いて、私も探す手伝いをしていました。

　異端とは、つまりは魔術師でない、無能者ではない人間の事です。

　帝都を離れて、帝都以外の文献や遺産を調べる事ができるようになった彼が見つけたのは、魔術師を記す文献よりも異端とされている能力者や魔法使いの事を記したもののほうが古かったのです。
　世界を構築している樹に愛されて生まれてくる魔術師、世界を守る役目を与えられた魔術師が、自らより古いものを滅ぼそうとする仕組みを作ったのは誰なのか。

　それは分かりませんでした。
　結局生きている魔法使いは見つからず、やっと会えた能力者は帝都の生まれで何の情報も持っていなかったそうです。
　世界を旅してわかったのは、この世界にはもう殆どの能力者、魔法使いが死んでしまっているという事でした。
　魔術師を尊いとする国が、全てを殺してしまった後でした。


　彼のもう一つの研究、召喚魔術の話に戻ります。
　彼が始めて召喚に成功したのは、魔法生物のようなものでした。
　魔法生物についての知識があった彼は、その生物を生かすための正しい処置をとりました。
　世界樹の下に生えた魔力を持つ植物を餌として与えたのです。
　ですがその生物はみるみる衰弱し、生きる事ができませんでした。
　魔力で召喚された生き物であり、魔法生物と同じ特性を持つ生き物。魔術師達の常識では、魔力を持つ物を与えねば死に、それ以外の食べ物はほとんど必要の無いはずでした。
　それは魔力を持つ魔術師も同じで、完成された魔術師ほど食事より、摂取魔力の必要性が高くなるそうです。

　彼はこの不思議さを、自らの未熟さと感じたそうです。
　召喚魔術についての研究を進め、この昔にあった魔術を復元、改良しようとしました。
　ですが思うような成果は得られず、彼はしかたなく動植物と同じ接し方をしたそうです。
　それでも長く生きる事はありませんでしたが、魔力を与えるよりは元気な姿を保ちました。
　魔術で作られたその生き物は、魔法生物ではなかったのです。

　常識から外れた生き物、世界樹の恩恵を受けない生き物。
　そしてこれが、魔法使い、能力者と並ぶ異端とされた理由ではないか。彼はそう考えました。
　そして、仮説を立てたのです。
　召喚魔術は"召喚"というように、生物を呼び込んでいるのではないか、理の違う場所、違う世界があるのではないか。

　そして彼はその場所に行ってみたいと思うようになりました。
　けれど、彼は魔術師でした。世界樹の恩恵を受けなければ生きていけない魔術師でした。
　召喚した生物が死んでしまったように、彼も外の世界では死んでしまう可能性がとても大きかったのです。
　なんとか召喚した魔法生物から魔力を得られないかと試してみたそうなのですが、なかなか成果が得られず、生物の死体は増えていくばかり。自然に得る魔力摂取を控えるために帝都から離れた所で暮らし、体調と比較しつつ魔力を得られる物を召喚しようと試み続けていました。
　そうして彼はいくつかの召喚物から、ごく少量の魔力を得られたそうです。
　
　そして同じものを召喚しようと、召喚先をある程度特定することに成功し、そしてこちらから物を送る事ができるようになったそうです。
　物を送り、それをもう一度召喚しなおす。
　そしてその精度は今やとても高くなったそうです。目の前で見せていただきました。

　そうしているところに私が現れたそうです。ちょろそうな女が現れたそうです。
　酷い話です。
　召喚先を特定できても、呼び出す召喚物でどれが効率がいいのか分からず、このままでは召喚に使う魔石の消費もばかにならない。
　夢叶わず資金が尽きて、表に出たところを帝国兵に殺されるだけだと。
　だから私にそれを探してきてくれと頼もうとしたというのです。

　その話を聞いただけなら、私も別に、そんな私が死ぬかもしれない場所にわざわざ行くことなんてありませんでしたが、彼にはとても大きな恩がありました。
　とてもただの人間である私が、子供で何の権力も無い私が、帰る場所のない私が返せる恩ではありませんでした。
　
　だから私は引き受けたのです。
　この、どうしようもない、自分の事しか考えない、財産に任せて好き勝手生きてきた彼の頼みを引き受けたのです。

　そして今、私はいくつかの生き物を連れています。
　このなかに彼の求めるものがあるかどうかは、一度彼の元へ持っていかなくてはなりません。
　けれど、けれど私は、彼に戻してくれと連絡する方法がありません。私には元の世界に帰る手段がありません。

　彼は10年くらいは待つといっていましたが、私はできれば早くと思っています。少し焦るくらいが丁度いいと思っています。
　この一揆が終わったらすぐにでも帰れるように、そのくらいの準備をしなくてはなりません。

　でも、どうしたらいいのか分かりません。
　無知な自分を嫌になる余裕もなく、私はただ、私に自信をもって行動する事しかできません。
　否定尽くしです。




　でも、とりあえずは、この一揆のため、私がわがままを言ってしまった仲間のため、まずは私の仲間の元に戻らなくてはなりません。
　彼らは既に城の中でしょうか、私は城が見える平原を通り、彼らの元へと戻ります。

　すると知った顔を見かけました。
　彼らも私を探していたといいます。私の仲間に頼まれたのだといいます。　とても優しい、大切な人たちに頼まれたのだと、少し嫌そうな顔文字を出しながら、彼ら（彼女ら？）は言いました。
　私はお礼を言って、彼らとともに仲間の元へと急ぎます。
　ここで出会った人がみんな良い人たちでよかったと、彼らの後ろを付いて行きながら、私の口元は緩んでしまいます。

　元の場所を思い出して、元の場所を思い出す暇を無くして、彼と大切な姉以外を今は記憶から排除して。
　私は私の道を進みます。

＞ユーノ

＞スズメドラゴン

＞エオル

＞うた

異邦の余所者にこうまで高待遇であり、信じている節があるのは少し、珍しい気もしていて。

　

　
一度合わせた手を片方だけ斜め上に伸ばす。
幹から分かれた枝を現したいようだ。現したかった、らしい。

　

言いがかりも甚だしい。子供の戯言と思って適当に答えるだけでも十分だろう。

一応まともな会話もできるようだ。

誰かに付けられている事には、気付いていた。
だからこそ”この場所”まで来たのだ。

周囲に張り巡らされた罠の数々に気付くかどうかは、少女次第。

左に進めば、足元を狙う麻痺毒を塗られた矢。紐がトリガーだ。
倒木を超えて右に進めば、落ち葉に隠された底の深い沼。
仮面の男の進行方向には、気化した睡眠薬を仕込んだ落とし穴。
少女と男の間にはイノシシ罠が仕掛けられている。

罠を越えた先にも複数の罠が存在している。
現時点でそれに気付くには、優れた直感が必要とされるだろう。

仮面の男は少女に背を向けたまま、その場を跳躍。
そして少女の方に弓を構えながら、進行方向の上方にある太い木の枝に着地した。

妙なプライドがあるらしい

礼儀正しい言葉使いは、少なくとも彼女の常識の中では狩人が身に付けるには少し都会的過ぎる技術であった。

そんな、母親じみた事を口にする。

ぽむり、手を叩いてから、謝られたことに対してとんでもない、と手を振って笑い

貴女は、と言った処で途中一瞬止まり、それからふふ、と笑って

　ハズサ様が大剣で敵の近接初撃を受け止め、そこから手札を切り始めた。