昨日は動揺して意味不明な文章を残してしまった。
事の起こりからしっかり書いて行こうと思う。

まず、昨日。
朝陽が昇ると同時。待ち合わせの時間に教会に行くと、昨日の司祭はおらず、少女が一人いた。
年齢は8歳くらい。
――本人がうるさいので書き足す。
自分は11歳で、童顔で背が低いからそう見えるだけなのだと主張している。

――そういう少女が、昨日の司祭と同じ造りの、サイズを小さくしただけの衣装を着ている時点で嫌な予感はあった。
ディラックが「同行してくれる神官を迎えに来た」と言うと、やはり「自分がそうです」と胸を張って主張して来た。

少女の名はヴィルム。
教会において絶大な権威を持つ「聖女」の下で物心がつく前から修業し、その聖女から「この娘こそが私の跡継ぎに相応しい」というお言葉を頂いた僧侶なのだと言う。
彼女が言うには、聖女は腐敗しきった教会にあっては掃き溜めの鶴であり、清く優しく、自分が知る限りではこの世で最も純粋な祈りを捧げられる御仁だという。

念の為、ディラックが同行後の事や詳しい事情を知っているかを尋ねると、それはもう元気よく
「はい、宝玉の探索とー、もし運び手が亡くなっていたら埋葬と死後の安寧をお祈りしましてー、後は魔王も倒せるなら倒すんですよね？　道中は命の危険があるとか。神様の試練ですね！」
…などと握り拳を作りながらにこやかに言った。
「私、軽いからおんぶしても負担は少ないですよ！」
しかも背負ってもらう気満々だった。
「自分で歩きなさいよ」と傍から見てた私が思わず言うと、彼女は「あ、そうですねー。おんぶは最終手段で！」と笑顔で返された。

正直な所、私は彼女の何もかもが信用できなかった。
言っている事は、こうして落ち着いて考えれば嘘ではないだろうと思う。彼女は見たままの、良い子なのかもしれない。
ただ、私はそれが何だか嘘くさく思えた。
この数日にあった出来事のせいで人間不信になってしまったのか、あるいは昨日聞いていた、任務を妨害するかもしれないという話が私の頭の底まで根を張ってしまったのかもしれない。

ともかく、私は彼女を警戒せずに過ごす事は出来無さそうだ。
2人は信用しているようだから、口には出せない。私の心の内に秘めておかなければ。


考察はさておき、ヴィルムは外泊は初めてだとはしゃいでいたし、外の物が珍しいのか道中騒がしかった。
それが、私の故郷が滅びてからずっと、何も言わないけど私に気を使ってくれた2人にとってどれほどの救いになったかは解らない。
けど、それは私にはできない事だっただろうから、彼女が何者かはさておき、その行為にはとても感謝している。




ヴェルムがやたら私に絡んでくる。
私としてはあえて近づいて険悪ムードになるのも嫌だったのだが、お構いなしだった。
内部分裂でも企んでいるのか、はたまた本気で空気読めないだけなのかは分からない。
冷静さを保てれば良かったのだが、ちょっと口調が荒くなっていたかもしれない。
気を付けなければ。




…気のせいでは無い。やはり私に度々話しかけてくる。
ディラックやグリフの方が可愛がっているのに。冷たい対応をする私に。
男性不信か何かなのだろうか？




今日も話しかけてきた。
昨日は随分とキツく当たってしまったと思うが、平気なのだろうか？




やたらと私の心配をしてくる。
軽傷だし、前衛となっている二人程ではないと言うのに。
何か狙っているのだろうか？




夜中、ふと目を覚ますとヴィルムがうなされながら泣いていた。
起こすと、寝惚けていたのか余程怖かったのか、私に抱きついて泣きじゃくって、そのまま疲れて眠ってしまった。
泣いている間、声は出さなかった。

正直な所、それで彼女を信頼したかと言えばそんな事は無い。
そういう演技なら、誰だってできる。
ただ、村が滅ぼされて旅立った時の事を、ちょっと思い返してしまった。

今でこそ信頼もできるし、大切だと思える2人だが、その時の私にとっては2人が信頼を置ける人物という事が分からず、まして男女で、こちらは非力な魔術士なわけだからそれはもう警戒した。
もしかしたら、怖がっていたかもしれない。

ただ、ヴィルムは私とは違った。
教会では聖女の眼にかなった優秀な人物である以上、こうした探索任務を放り出す事はできない。すれば、聖女の権威は落ちるし、彼女の言う事を信じるなら、それによってますます教会の腐敗は進む。
だから、どんなに嫌でも彼女は私達からは逃げられない。逃げようと思えば、いつでも逃げられた私と違って。

考えてみれば、彼女を疑う要素は「教会から派遣された身である」という一点のみだ。
少し、疑心暗鬼になっていたかもしれない。
それに、裏切りをしているとしても、裏切るタイミングは今では無いし、その時に警戒すれば良いだけの事だ。

だから、明日からはもう少し彼女に優しくしてあげないと。



【追記】
抱きついたまま離れないので、一緒のベッドに眠る事にする。
折角、宿屋に泊ったのになあ。

　フィーグルに撫でてもらってとても嬉しくなり

　たまらず抱きつこうとする
　あなたは受け入れてもいいし避けてもいい

　そう言いながらくるん、と回ってみせる

フォローのつもりだが一切のフォローにもなっていないのはいうまでもない。
何のフォローかも分からぬが、言を欠かすのは嫌だったのだろう。

世界を渡れることの珍しさについてはそんな調子。そうでもない、と言いたげな口調。

言って、道化た笑みを浮かべる。
現に彼女から感じられる魔力自体そう大きなものではない。並みの人間のそれらより少し強い程度。
もっと深く探ればより大きなものを内面から探し出せるかもしれないけれど。

　
　落ち着いたのか、大人しくフィーグルの話を聞いている。　

　
　血をひいてるというだけでもなんだか嫌なご様子。

　

　

少し口篭りましたが、「まぁいっか」と軽く呟くと話し始めます。

そう言いながら恥ずかしそうに触手で頭を掻きます。

アウラルの花弁の中から黒い子猫が一匹這い出してきて、ちょこんと座り、頭を下げてフィーグルさんに挨拶しました。

フィーグルさんの方をちらっと見てから考え込む様な素振りを見せますが、敢えて触れずに話題を進めます。

なにやらおかしな想像をしてる様です。

侵略者を叩き返すという言葉に強い意志を感じて、アウラルはにこにこ笑顔でうなずきました。

特段責める色はない。
ただ、純粋な感想にも近かった。

そうして自分の知る”魔”について問われれば。

そう言ってから、勢いで発された答えを聞く。

二回目。
今度は、笑い混じりに。
勢いで言っているということは、見え見えだったので。