モノを創る……というのは、俺にとっては結構身近な作業だ。
　というのも、俺は元々そういう事を専門とする匠の家の生まれだからなんだけどもな。





　次元竜は、世界と世界の狭間のほんの僅かな空間にひっそりと暮らしている種族だ。そんな俺達が暮らす浮島にはポツポツとそこに暮らす次元竜達の棲家があり、自給自足の為の設備が最低限整えられている。

　もっとも、ある特定の浮島にしか無いような設備もある。例えば次元竜の皆が使うようなモノを創る『工房』なんかはその最たるものだ。そこで日用雑貨からちょっとした専門道具、或いは武器や防具みたいな特殊な代物まで何でも作っていて、ソレを各浮島に専門の奴等が定期的に運んだり、或いは注文をもらってきたりとかしてる訳だ。
　この『工房』は次元竜の中でも特定の竜達……『匠乃司』と呼ばれる一族が管理している。その一族が暮らしてる浮島は匠の島って呼ばれるぐらいだったりとかもするぐらい、生活に密接に関わりのある奴等だったりする。



　俺も実はその一族の一員だ。それも末端とかじゃなくて実は一族でも首領の家系の。
　……ま、そう自慢できる話でもない。大体次元竜の世界での上下関係なんてメルンテーゼでは関係ないしな。それに俺個人（いや、この場合は個竜だな）としてもその辺はあまり考えたくもない話なんで。
　何にせよ、この一族に生まれ育ったからにはそりゃまあ小さな頃からモノ創りを当たり前みたいに習わされる事になる。俺もご多分に漏れずその一頭で、しかも首領の家系の出だからってスパルタチックな教育をされたもんだぜ。とはいえ、俺は元々何ていうのかな……こういう「何かを創る」って作業は好きな方だったから苦痛とかじゃなかったんだが。逆に色々と新しい技術とかやり方とか教えてもらえて、楽しいもんだと思ってたぐらいだ。

　……まぁ、こういうのが嫌で程度成長したら別の島に出て行っちまったりとか、或いは次元の旅人になる奴等も多かれ少れいたりはするんだがね。どうしてもコレはセンスやら才能の世界だ。飲み込みの悪い奴は置いていかれるし、そういう奴等には問答無用で不名誉なレッテルが貼り付けられちまう。そうなれば出来損ない扱いされちまう奴等も少なかれ出てきてしまうから、仕方がない話なんだろう。



　こうして、色々な事情からひきこもりの匠から次元の旅人になっちまってる俺ではあるが、モノを創るって作業は本当に身近なものだったりする訳だ。それこそ、趣味とか遊びとか、それに近いぐらいに。　






　ふと、そんな事を思い出したのはちょっとしたモノ創りの最中に沙雪に声をかけられたからだ。
　その時俺達は進軍の最中の休憩中だった。場所は「星屑の小川」。契約しておきたいエンブリオが居る、という仲間の進言があって山岳の方からひとっ飛びで戻ってきた形になる。その途中ではミクネが砂地の方のエンブリオが気になるってことで一旦離脱したり、俺達と同じく水辺の方に行きたいっていう別の一揆参加者が一時的に同行する事になったりと色々あったんだがな。


　沙雪というのは、その一時同行者だ。
　この水辺へは、ナイトスピリットというエンブリオ狙いで一緒に来ることになった。

　沙雪＝ランフォード。まだ（少なくとも見た目は）年若い少女だ。年齢確認は流石にどうなんだと思ってしていないが、人間らしい様子からしても十代半ばから後半辺りと見て間違いはないだろう。あまり見慣れない不思議な服装が印象に残っている。前も似たような服を見たが……アレは人狩りの一人だったから、多分関係ないだろう。名前もだからか独特な響きで、軽く聞けば書く文字がまず違うという。
　メルンテーゼは広いからな、いろいろな文化圏の奴等もそりゃあ参加しているだろうとは思っていたが。彼女も多分、そういう面々の一人なのだろう。もっとも、それは軽く雑談した程度の情報でしか推測できてないんで、申し訳ないが他聞に偏見を含んだものもありそうなんだがね。

　ティア、というエンブリオの少女（だと思う。多分……）を連れていてあっという間にステフだのアルコルだのとも馴染んで会話してるあたり結構肝っ玉は太そうな娘だとは思う。ミクネもいたらきっと女三人揃えば姦しい……どころじゃなくなってたんじゃないか？　一時離脱はよかったのやら悪かったのやら。



　何にせよ、その彼女は物珍しそうに俺の手元を覗きこんで来た。ちょうどその時の俺は、この旅の途中で手に入れた素材から自分の武器を創っている最中の事で、ちょっとびっくりしたのを覚えている。
　彼女は俺の手元を見ると、不思議そうに首を傾げていた。何がそんなに不思議なのかと問えば「だって今、蟹の殻を持っていたように思ったんですけど……」との事だった。嗚呼なるほどと納得する。だってその時既に俺の手の中には一丁の銃が硬質な輝きを浮かべて転がっていたからな。

　俺の呟きに彼女は一度頷いて、普通ならもっと端材とか出るんじゃないかと不思議そうに俺の手元と俺の顔とを交互に見る。その反応はなんだか新鮮で、後は……なんだか懐かしくて俺は小さく笑った。そういえばそんな反応、妹も俺のモノ創りを見た際にしてたもんだな、なんてね。
　まあ座れと俺は隣を指し示せばおずおずと腰掛ける様子は大人しそうな性格もあっての事だろう。大人しいといえばアルコルも物静かで大人しいほうだが、何だかんだで結構ドギツイこと言ってくる事が稀によくある（なんだか言葉がオカシイ気もするがそう間違っても居ない）ので大人しいだけの女じゃないのは身に沁みてよくわかっている。

　……うちの女性陣もこのぐらいになればなあと思わないではない。
　いや、まあ、今のままでも悪くはないがな……うん、たまにそう思っちまうよーな事がな……あるわけで。




　閑話休題。
　俺は不思議そうにしている沙雪に軽く説明してやった。

　怪訝げな顔を見返しつつ、身振り手振りを交えながら俺は続けた。

　まあこれは俺が知ってるやり方の一つであって、メルンテーゼでもそうかどうかは知らないけどな。とは言え彼女は多少理解できたらしくこくこくと頷いてみせれば、俺の場合はどう違うのかと思案する表情だ。ソレを横目に小さく笑う。

　次元竜のモノ創りは、『作製』というよりはどちらかと言うと『分解』と『構築』からなる再創造に近い。だからモノ作りではなくモノ創りというし、実は扱うものも生物非生物問わずやろうと思えば何だって材料にできるし構築出来る、なんていう変なところがあったりする。勿論誰にでもできることじゃない。才能や、実力や、いろいろな要素があってのことだし多分次元竜自体の特性もあっての事なのだろう。
　とはいえコレを理解できるように他者に伝える方法なんてそう簡単にあるものじゃない。実際、匠の一族に生まれた奴等だって実際に目にして体験するまではさっぱりワケの分からない話だしな。それを全く異なる種族へと正確に伝える方法なんてある訳がない。


　そんな訳で俺はどう説明したものかと言葉を選びまくった訳が、なんだか逆に悩ませてしまったらしい。疑問符を無数に浮かべてそのままショートしちまうんじゃないかみたいな顔になってたので、流石に申し訳なくなって俺はこの話はココで打ち切ることにした。
　ちょうどいいことに昼飯が出来たとアルコルが呼びに来たのでそのまま昼食となったのだが……相変わらず頭をぐるぐると沙雪がさせていたのは、自分が原因ながらちょっとおもしろくて笑ったのはココだけの話だ。

　まあ、何か勝手に勘ぐってステフに顔に蹴り入れられたりしたりもしたが。
　……これはあまり思い出したくないことなので、忘れておくとしとこう。

明らかに触ってはいけない角に触れてしまったと気づき、急いで手を離して体を引く。
このとき手を離すことに意識を置きすぎたためか、上半身を後ろへ引いた勢いを抑えられず、体はそのまま後ろの方へ転がっていった。

ごろごろごろごろごろ　　ガササッ

草むらの中の枝の多い植物にぶつかり、なんとか止まったようだ。

立ち上がり、クライ青年のもとへ戻る。
青年の傍らに立ち、手を伸ばした。

立てるかと尋ねてるらしい。

流石に声と仕草で気が付いたらしい。
一瞬真顔になったがすぐにまた微笑む。

俺は流石に男は遠慮したいがな、と笑っている。

そう言ってあなたをしげしげと眺める。

聞こえるか聞こえないかの声でぼそっと小さく呟いた。

男の主人はその呟きが聞こえたのか、険しい目つきで彼を後ろから見張っている。

戦闘を終えたばかりのあなたに、一人の少年が近づいてくる。

戦闘中のあなたの姿を目撃していたらしい。
そこにあるのは、感動と興奮、衝撃と尊敬だ。

あなたの言葉を、期待に満ちた顔で待っている。

クライの前に突然姿を表したのは、巨大な黒い鎧。
見覚えがあるかもしれない。

そう言って、ごそごそと鎧の中を探る。

そう言って取り出したのは、あの時に貰ったお菓子の袋。
とても美味しそうなチョコとマシュマロである。どうやら手を付けていないらしい。

【前回を思い出し中】