『剣の姫（に在らず）』

　ロギは戦術屋だ、それでスズメドラゴンが勝てるなら、それでいい。
　見真似屋のヒサメ対策も、戦術だった。大剣だから魔法を使ってはいけないという決まりはない。大剣を使うということは、魔法を使わずとも勝てる、という意味であって、大剣だから魔法を使えないという意味ではない。（魔法の効率面は、双剣が優れている）。

「スズメさん。魔力をよく分けておいてくれ」
「うむ。うむ……？」
「ハズサ様にも、エフェルトにも、内緒だからね？」
「心得たが……」
「文句ある？」
　
　スズメドラゴンは、無言を貫いた。それを了解と受け取って木陰へ向かう。そこで、ロギはハズサ様に無言で打ち掛かった。
　ロギとハズサ様を比較すると、腕力と精度の面以外ではすべてロギが上回っている。具体的に技巧、速度、駆け引きの点だ。深夜にハズサ様とロギが剣撃を交わす。正面から打ち合えばロギは押し負けるので、ハズサ様を駆け引きで振り回して隙を作って打ち込んでいる。刃は寸止めだ。この勝負で決定的なのは、腕力と一撃に懸ける重さ。大剣という武器に関していえば、その差は非常に大きい。己の体重より遥かに大剣の方が重いというほど、武器に依存する部分はあるのだ。
　いつ、どちらが気を逸らすか。それを合図に練習は終わる。この日は、終わりが来なかった。来ないまま、日の出を迎えた。

「このまま寝ちゃ、駄目かな」

　ロギがハズサ様の大剣の刃に首を近づけ、そのまま胸元に雪崩れ込む。ハズサ様も気が逸れたのを確認して、大剣を素早く地面に投げ捨てそのまま緩やかに落下した。

空威張りのメッキが剥がれる日も近そうだ。

小さくても野獣。

　言って苦笑いする青年である。

　四桁を超える歳になってもこの小さいサイズなのだろうか、などと。
　そんな他愛もないことを考えつつ続ける。

　ぼそぼそと。
　そう呟く声には妙に実感がこもっていたそうな。