眼前に広がるのは雪が降り積もるとある戦場の風景。
彼方は白き竜が率いる悪魔の軍勢。
解けぬ雪に覆われた白き城を守る。
此方は黒馬の騎士が率いる聖騎士の軍勢。

その牙城を崩し竜を狩ろうと、幾多の弩砲を引き連れる。
互いの軍勢は合わせて五千余。
聖歌と呪言が響き、両軍はまさにいまぶつかろうとしている。
そして、その均衡を破ったのは白き竜の毒気に満ちた咆哮だった。

咆哮と同時に城壁の上からゴブリンの弓兵が矢を放つ。
騎士たちに降り注ぐ幾千の矢を意思を持った風の祝福が薙ぎ払う。
その祝福を信じて騎士たちは敵に向かい、馬を駆る。
先頭を行く黒馬の騎士は城前の守りを固める歩兵たちへと突っ込む。
騎士に向けられた長槍を掻い潜り、鎧を纏った黒馬が歩兵たちを蹴散らす。
前足でゴブリンの頭を砕き、祝福された鎧でインプの魔法を弾き、後ろ足で数人を同時に吹き飛ばす。
そうして切り開かれた道へ楔形陣形の騎兵が突き刺さり、歩兵の陣を切り裂いて行く。

そのとき後衛の弩砲を壊そうと城から飛竜が飛び立ち、騎士たちの頭上を大きな影が通り過ぎる。
その飛竜を迎え撃つようにいくつもの銃が火を噴き、その翼膜を引き裂く。
そして、風を失った飛竜は地に墜ちる。
地に墜ちた飛竜を待ち受けていた歩兵たちが、その毒棘のついた尾を切り落とし、
銃弾により砕かれた鱗に狙いを定め、聖槍を突き入れる。
それでもなお、幾匹かの飛竜は弩砲へと至り、二つの弩砲が破壊された。

戦場に流れる騎士と悪魔の血。
血に染まった城壁の外、悪魔の形勢が不利に転じ始めたとき、忌まわしい言葉が戦場に響き渡り、
地に流れる血が、魔法陣を形成した。
そしてその陣がおぞましい光を帯びたとき、そこにバンシーの金切り声が響き渡った。

戦場の中心にいた騎士とゴブリンたちがその死の声に誘われて命を落とす。
運良く儀式に気づき、耳を塞いで命を取り留めた者もいた。
その者の内にも耐え切れず気を失ってしまう者ばかりだった。
黒馬に跨る騎士も意識をそぎ落とされた者の一人だった。
馬から落ちた騎士を殺そうと意識あるゴブリンたちが襲いかかる。
そのゴブリンのうち一人が吹き飛んだ。黒馬が蹴り飛ばしたのだ。
呪いを受けた身代わりとして、祝福を受けた鎧が砕け散る。
その返り血に赤黒く染まった姿はいつかの少年が見た姿だった。

ナイトが群がる幾匹かのゴブリンを蹴散らしたとき、
戦場の騎士たちにとどめを誘うとまた幾千の矢が戦場に降り注ぐ、
その矢の雨から気絶した騎士を守るべく黒馬は盾となって矢を受ける。
返り血に混じり、黒馬の血が流れる。
最期まで立とうとするも、力なく脚が折れる。

こうかてきめん、と。心なし、瞳をきらきらとさせて。

ヤサカの数歩先で、同じように歩みを止める。
顔を前に向けたままで、その表情は伺えない。

吹きすぎた風が、白い花弁を地に落とす。
振り返った蟒蛇が、舞い落ちた梔子の花を踏み潰す。

その長い紙の影になって、振り返っても表情はあまり良くわからなかった。

──ルトゥ、と傍らの風精に。
呼ばれた少年は心得たとばかりに透羽根で空を叩く。
呼応するように集う風が、神獣達を挑発するように逆巻いた。

目を、見開く。随分と見知った顔が、そこにはあった。

みしりと。右腕が、その手に持った鎌の柄が。
再開を喜ぶかのように、哭いた。

そうして傍らのコルンヴォルフもまた、少年の横へ並び立つ。

*銃を構える*

傍らの仔狼の背を撫でてから立ち上がり、よろしく、と小さく頭を下げて。

彼の元に集まる幾つかの視線や切先に、ことりと首を傾げた。

戦えるチャンスだからって、と呟きつつ苦笑交じりに溜息。

にこりとヤサカに対して笑い、『逢魔ヶ刻の魔眼』を空間の裂け目からひきずり出した――

　その場に並んだ、自分以外の七人を見やる。ふむと軽く声を落とした。
　

　

　言いながら、得物――棍で軽く一度、肩を叩いて。
　

　まるで何の説明も無く、それを構えた。

口元に笑みを浮かべたまま会釈。そして魔異と冬花を見。微かに笑みを深くする。
そして

名指しでとてもいい笑顔を浮かべた。