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　　　　　　　 ｼﾛｻﾞｷ ｱﾝﾅ
幼い少女、『白崎杏奈』はスラム街に住んでいた。

どこの世界かもわからない、名もない寂れた街だった。
　　　　　　　ｼﾛｻﾞｷ ｸｳ
少女の弟、『白崎空』や、父と母と一緒に暮らしていた。



その街で見られるのは、慈悲もない【現実】だった。

油断をすれば身剥ぎをされ、略奪され、死ぬことだってよくある。

命乞いなど無意味で、非情な街の中で、彼女らは暮らしていた。

そんな中で生きてきたのだ、まだ10歳の彼女も、7歳の弟も、非情な現実というものをよく知っていた。

自衛を怠らず、時には奪うこともし、必死に生きてきた。

杏奈はすっかり、この街の常識に溶け込んでしまった。



しかし彼女は幸せを感じていた。

家族と一緒にいる喜び、寝床がある喜び、食事が提供される喜び。

辛い生活の中でも、その幸福があるから、彼女は彼女でいることができた。

『白崎杏奈』は、まだ『白崎杏奈』であることができた。



それが消えたのは、唐突だった。



いつもの晩、いつもの光景、彼女は目を閉じた。

次に目を覚ましたときは、そこはもう、いつもの光景ではなかった。

背に感じる硬い感触、鼻をつんざく異臭、錆びた光景。

すぐさま起き上がる。辺りを見回すと、寂れたガラクタの山だった。

ゴミしかなく、動くものは何一つ無かった。

足元を見てみると、弟がまだ寝ているようだった。



最初に生まれた感情は【憤怒】だった。

それは、両親に対する憤怒であった。杏奈は、捨てられたと思ったのだ。

何の疑いようもなかった。「また連れ戻してくれるのでは」という希望なんてなかった。

あの街で育った杏奈には、そのような希望を抱くのは不可能だったのだ。

両親を深く信用していた故に、生まれる憤怒も大きいものだった。



その感情は『白崎杏奈』を殺し、『アンナ・シロザキ』へと転生させた。

一方、その弟は、特に何も感情を産まなかった。

正確には「感情を失った」のだ。感情が欠落し、『白崎空』は『クウ・シロザキ』へと転生した。



アンナは、「捨てられたのならば、自分たちは『ゴミ』である」と宣言した。

二人はこれから「ゴミ」として、この「ガラクタの山」で生活を始めることになった。



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試しに、と水面にゆっくりと降り立ち、身体を沈め、

やっぱり沈んだ。
身体がほとんどガラスだから仕方ない。
しぶしぶ普通に泳いで浮かんできた。

そう言って、ファイはぱっとジャンクノームから手を放した。
それからジャンクゴレムの方に向き直り、ぺたぺたとまた触り始めた。

少し黒くなった手を気にも留めない。

ジャンクゴレムの顔に手を伸ばそうとしたところで、ようせいが慌てて止めた。

ファイは名残惜しそうにジャンクゴレムから手を離すと、
ジャンクサラマンダーに目を向けた。

きょとんと首をかしげ、ジャンクサラマンダーに問いかける。

ファイは暫くの間、ぷにぷにとした感触を楽しんでいた。