―・・・



魔術が使えない。

それが大変なことだと理解したのは物心ついてからしばらくして。

最初は漠然と、次第に実感として。

周りと自分が違うことをいやでも認識していった。

「あなたは本当に人間なの？」

いつか聞かれたことがあったけ。





その答えは未だに見つからなくて。

だから俺は尋ねたくて。

なあ、逆に教えてくれよ。

俺は本当に人間なのかな。



























―ただの日記―







―○月×日―








ラノカネ君、フィーナッハ、ティルム君とは途中で別れることになった。
地下牢での短い間だったがなかなか楽しい一時だった。


また、どこかで会うこともあるだろう。
次はどこであうことやら。

さて、地下牢の横幅制限もわかったことだし、元の道に戻ろうか。









―同日―




はい、迷子になりました。
来た道を戻ってきただけなのに何故迷子になる！

迷宮か、ここは。










―さらに同日―


やけくそになって歩いていたら、外に通じる道をみつけた。
これも日頃の行いが良いからだろう。

しかし、この地下牢外に通じる道がいろいろな場所にありすぎるだろう。
というかこの城の異常な広さはなんなのだろうか。

こんなにでかい城を建てる意味がよくわからない。
掃除とか絶対大変だろう。


そして無闇に大きい地下牢。

こんなに大きな地下牢作っても絶対使い道は無い。

こうなったらひとつの部屋を貸しきって俺の拠点にでもしてやろうかと思った。
思ったが空気が悪そうなのでやめておく。

こんな空気の悪い場所で料理なんて正気の沙汰じゃないからな。飯がまずくなる。

なかなか鋭いツッコミをするようになったな。
ベルも。




―さらに同日―

地下牢を抜けると小川だった。

この城周辺の地形がどうなっているのかさっぱりわからない。




まあ、置いておこう。
そんなことよりも非常に目を引くものが、俺の視界に写った。

感動の再開であった。
話をきくとどうやらタイガーも迷子になっていたらしい。



俺たちに方向感覚というものはまったく備わっていないことが露呈してしまった。






―感動の再開その後―

激突した白い壁が動き始めた。
いや。
どうやら、こいつは壁ではなかったらしい。



壁にも見えるその巨大な身体。

うねうねとうごめく触手。

巨大なイカだ。

どうやらひどくお怒りのようだ。
まあ軽トラのタックルを喰らったら誰でも怒るだろうが。


さて、どうするかと思案していると。



ちょおおぉぉっと待ったあああぁぁぁッ！！！


今度は何事かと上を見上げると。
小柄な少女が落ちてきた。


見るとなんだか魔法使いっぽい服装。


つまりこれは…

パーティなら俺の得意科目だ。
盛り上げてやろう。

タックルでな。

　ベルの心遣いが有り難いながら、そこまで気にせずとも良いと告げる青年。
　トートなりの親しみを込めた呼び方なのだろう、と判断している様子である。
　仕事云々には、何とも微妙な顔をしつつも頷いた。

　なにせ『何でもない屋』である。
　八百屋とか魚屋とかそういうのと違って、出来ることやサービスの分かりづらさがネックポイントらしい。

　竜ばかりになるのも当然の環境といえば当然であった、という事らしい。

　あからさまに不安げな表情ながら、しかし折角のオススメである。
　無下にも出来ない青年は、ちょっとビクビクしつつも荷台に上がった。
　座った。
　不安げにきょろきょろと見回していた。


　――…その矢先である。






　トートがアクセル全開（150km/h）で発進したのは。

　急に動き始めた為に何の事前準備（心の準備含め）もできていなかった青年は、思いっきり後ろに座り込んだまま倒れこむ。ガスンッ！……とあからさまに痛そうな音を立てて荷台の一番後ろに後頭部を激突させた挙句、一度ガクンと沈んで跳ねた車体の動きに身体が跳ね上げられ――……

　結果。
　走り去るトラックと地面に打ち付けられ取り残された青年……という何とも無常感あふるる光景が繰り広げられる羽目となったのはココだけの話である。