情けねェッッッ!!!
ダチを救うなんて言っておいて結局俺は何もしなかった。出来なかった。
俺が戸惑ってる間に、岬が前線張って守ってくれた。
イーサンが十神にトドメを刺してくれた。
伊藤君は十神を見下ろして「お前なんか友達じゃねぇ」なんて言ってる。
皆アンジニティと戦う覚悟が出来てンのに
俺一人が決断が鈍くて、まだ何も覚悟も決まってなくて
情け無くて反吐が出る。
ただヒーローを気取って戦場で右往左往してただけだ。
我武者羅に武器を振り回して叫ぶだけの奴がヒーローなんてあり得ねェ。
「でも俺は…誰も殺したくねェンだよ……」
綺麗事だってのはわかってる。
伊藤君が向こうに行ったのを確認して、
一人で座り込んでこうやって呟いても事態は何も変わらない事も知っている。
目の前の、理不尽が、不条理が、やり切れないだけだ。
「俺は結局さ……コレしか能がねェンだわ……」
倒れた十神の傍に異能でこっそり唐揚げを出した。
向こうじゃ普通の唐揚げだけど、ハザマでこれ食うと傷が治るンだ。
馬鹿みたいな能力だろ? でも俺にやれる事っつったら考えてもコレしか浮かばねェ。
「メッセ、ちゃんと確認しろよ」
十神に声をかけて、伊藤君の後を追って岬の様子を見に行く。
岬もさっきの戦闘で倒れちまったから心配だ。
脳裏に、お姫様みたいに着飾って恥ずかしそうにはにかんでた姿が浮かぶ。
弁当を交換して、美味しいって言い合って笑ってた顔が浮かぶ。
俺はそういう笑顔を壊したくない。
だからごめんな、十神。
お前はダチだけど、俺はアンジニティとこれからも戦うよ。
伊藤君も、イーサンも、岬も覚悟を決めてるから
「俺はアンジニティを許さない」
『せっかく宣戦布告をかましてやったのに
「自分だけが後悔しない戦いをする」だァ?
全くヨケトの奴、腑抜けてやがるな。』
(会社に新顔が増えていた。まだアゲハと同じくらいの若い男だ。
遠目に見ていたがあまり人好きするような人間には見えなかった。
自ら志願して来たのだろうか?)
『もう少し、何人かに宣戦布告してみるか』
(それとも俺のように身寄りがない人間で、強引に連れて来られたのだろうか?考えたくない。)
『ヒトミちゃんがアンジニティだったのは驚いたな。
まァ、味方は多い方がアドバンテージ取れるし、テンションも上がる。』
(怪人の中には当たり前のように学生もいて、
どういった経緯で連れて来られたのかと想像するだけで恐ろしい。)
『蛙沼さんにも期待されてるし可愛い娘のラピアも居るンだ。
この手でイバラシティの連中を一人でも多く破壊できるよう頑張らないとな。』
(あの会社はまともじゃない。
人間を拉致して改造する組織がまともであるはずがない。)
倒されることで俺はようやく救済される。
裏切るつもりはない。
けど終わりにしたい。
謝りたくて助かりたくて謝罪したくて許されたくて、
逃げて、逃げて、逃げて、結局ここまで来ちまった。
酒はない。なにもない。苦しい。
クロスローズのメッセージを思い出して、首元をなぞる。
アンタなら言葉通り止めを指してくれるんだろう?
……騎士淵さん。
死神みたいに、俺の息の根をアンタなら止めてくれるンだろう?
熊みたいに強いアンタの手なら、俺の首なんか枯れ木みてェに簡単に折れちまうよなァ?!!
会議室でアンタに感じた、本気で俺を殺してくれるって確信だけが今の俺を生かしてる。
俺にはもうアンタしかいない。
ハザマで死んだら向こうではどうなるンだろうな?
出来るならアンジニティみてェに皆の記憶から消えちまえたらいいのにな?
ラクになりたい。償いがしたい。終わりにしたい。
アンタの感覚は真っ当だよ。
アンタが「そっち側」で良かった。
よく知らない世界の住人のためにイバラシティを犠牲にするなんて間違ってる。
イバラシティの英雄としてどうか
どうか俺の代わりに
頼む…
息子のアゲハをよろしくお願いします
イバラシティではハザマの記憶はなく、
予告なしに殺風景な世界へ飛ばされるのであまりいい気分はしない。
今回もケージに入れていた筈のラットが傍に居た。
ケージにいた時は標準的なラットの大きさだったが、
隣にいるこの生き物は二次性徴を迎える前の人間の子供くらいある。
イバラシティではこのラットに異能の効果を試していたので
恐らく私の異能の一部として扱われているのだろう。
ハザマに落ちる前、
ラットは姿形…例えば目の数や足の本数、口の造形など、
私が後天的に継ぎ足したので一般的とは言い難いが、
基本的な習性は変わらない。
普段は気まぐれに滑車を回したり餌を齧ったりするばかりだ。
けれどハザマでは大きさが変わっただけでなく、
こちらの意図を汲み取るような動きを見せる。
ハザマで異能が強まった効果なのかもしれない。
同量の肉を別の肉に変質させる異能。
また肉を粘土のように継ぎ接ぎできるこの異能の事を、
私は「バイオレンスキュア」と呼んでいる。
手始めにクロスローズをチェックすると
管理人さんからクロスローズの返信が届いていた。
やっぱり管理人さんはこの戦いには参加していないらしい。
非常事態なので急にメッセージが届いても驚かれはしないだろう。
私はあまり人の名前を覚えるのは得意ではないので、
手始めに名前を覚えているご近所さんにメッセージを飛ばそうと思った。
攻撃性の高い生物がいる事を加味すれば協力者がいた方がいいだろう。
私は戦争を経験したことはないが、
この侵略戦争内では自身の生存を第一に考えるつもりだ。
生きてさえいればどうにかなるだろう。
万一イバラシティの住民達がアンジニティに落ちた場合でも、
またイバラシティという街として復興するには人手がいる。
どんな場所でも住人さえいれば、街はまた出来ると私は考えていた。
だからせめて私が知りうる限りの住人の安否は確認しておきたい。
もう一度クロスローズの画面を開いた。
「日空日荘209号室の肉盛薔薇です」