
■ ■ ■
“金のねェ家にサンタは、来ねェンだよッッ!!”
父親だった男はそう言って飲み掛けの酒の缶を俺に向かって投げた。
クリスマスにサンタからプレゼントをもらった記憶がない
親父が飲酒運転の事故を起こして無職になったからだ。
しばらくの間は親父も家事やらなんやらしてたけど、
まもなくガスも電気も止まってまともな生活が送れなくなった。
家の金を全部あのクズが酒に使い始めたからだ。
おかげで風呂にも入れねェ。飯もまともに食えやしねェ。
暗い部屋であいつが酒の空き缶転がして寝転がってるのを見ると無性に腹が立った。
寝てる間に刺してやろうかと思った時もある。幸か不幸かその時は怖くて実行には移せなかった。
どうせ殴られてこっちが殺されそうになるのがオチだ。
それに人間を、仮にも親を殺すなんて、怖いに決まってる。
小さなガキだった俺は無力だった。
目の前で人を轢きかけたタクシーの運転手は帰り際に飴をくれたが釈然としねェ。
そのせいで嫌な記憶を思い出しちまった。
クリスマスに岬と買い物に行った幸せな記憶が汚されたみてェで気分が悪い。
ダチがアンジニティかもしれねェッて事を知ってからもう2度と来たくねェこの場所に
飛ばされた俺は変身済みの格好で胡散臭ェ白南海とか言う野郎の通信を受けていた。
正直運転手だけでも変えて欲しかったが今のところ徒歩以外で移動するにはタクシーしかねェ。
幸い仕事はこなしてくれたおかげで伊藤君と、岬と、姫園…いや。アンジニティのイーサンと合流できた。
姫園イーサン。ソラコーの中庭で話しかけて来た態度のデケェ中坊だ。
イバラシティと姿形も違って性格も変わっちまったヤツが言うには
「イバラシティに味方するアンジニティ」らしい。
伊藤君は不安そうにしていたし岬も驚いていたけど正直俺も警戒していた。
…けど
もしイバラシティに味方するアンジニティが居るッつーならきっと十神もそうに違いない。
人間を、ダチを、俺が殺せるわけねェだろ。2ー2で盛大に誕生日やったのだって覚えてンだろ?十神?
すっげー嬉しそうな顔で皆からプレゼント貰って笑ってたじゃねェか。
発端はお前の異能かもしれねェけど、ガキの頃の記憶思い出して泣いちまった俺に
手を差し出してくれたじゃねェか。
俺はお前の優しさを知ってる。
もしアンジニティならイーサンみたいに根は変わらねェはずだろ?
だったら……
お願いだ。本当に神ってのが存在するならどうか
一度もダチと戦うことなくこのハザマから皆と一緒に帰れますように。
■ ■ ◇
一通りクロスローズで宣戦布告を飛ばした。
ここに酒があれば…いや無くてもアルコールでも落ちてれば良かったのにな。
素面でいると気が狂いそうだ。
E.D.D.B(エスケープ『ドッジ・オア・デス』ボール)の内側で体当たりを繰り返すドロドロの赤い生物を遠くへ投げ捨てる。吐き気が酷い。
酒も、音楽も、ここに初めて来た時のままなにもない。あるのは怪人体に転身出来る体だけだ。
我慢出来ず隠れる場所を探して少し吐いた。
俺はイバラシティで生まれイバラシティで育った。
なのに現在進行形でイバラシティの住民全員を裏切り続けている。
緑色のお隣さん。親切に夜の酒盛り誘ってくれてありがとうな。
深夜にうろついてた近所の嬢ちゃん、あんまり親に心配かけるなよ。
ヒトミちゃん、喧嘩は程々にな。
文房具屋で親切に話を聞いてくれた店員さん…そうだよ、まだD.Dが好きなんだ俺は。
無人島で避田の連中と特別講師を招いてのレインボー補習…青春の1ページを思い出せたぜ。
ひるこちゃん、なんでも食ったり変な輩について行っちゃ駄目だぞ?
一度選んだ選択は変えられない。
目的を同じにする同僚と娘のモモカ…いやラピアがいる事は正気でいる為の唯一の支えだ。
上の奴らはミカボシ様復活を謳っているがミカボシと聞いて俺が思い出せるのは会社の名前と惚けた顔のミカンみたいなマスコットだ。
正直に言ってしまうと俺が恩義を感じているのは蛙沼博士とカツミだけだ。実感が湧かない。
そんな奴をイバラシティに送り込むために俺はイバラシティを裏切ってアンジニティについた。馬鹿げて見えるだろうが、これも俺が真人間になる為の俺自身が選んだ選択だ。
会社に忠義を尽くした裏切り者の侵略者として俺は今からイバラシティに攻撃を開始する。
ヒーロー、聞こえてるなら返事しな。侵略者はここに居るぞ。
これは俺の償いだ。
これは俺の報いだ。
これは俺の懺悔だ。
お れ は た だ し い こ と を し て い る
◇◇◇◇
もしや日空日荘の管理人さんはハザマには来ていないのだろうか。
困った。
ご近所の人たちの名前…名前…