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迦楼羅 「えっと、つまり……どういうこと?」 |
チャットの人物に言われるがまま時間を確認するがいまいちピンとこない。
僕一人ではそれを正しく認識することも難しい。
ただ、イバラシティとハザマでの時間はズレがあるというか、
これだけのことがありながら僕は何もハザマでのことを向こうで言っていなかった。
……駄目だ、考えるだけ頭の中がこんがらがってくるだけだ。
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迦楼羅 「こういうときグノウがいてくれたらなあ……」 |
はあ、とため息をついた。
そもそも、このハザマの空間にグノウはいるのだろうか?
自分だけがこちらにいるなんて可能性は低いだろうが
可能性がゼロというわけでもない。
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迦楼羅 「グノウを探さなくちゃ」 |
誰が敵で、誰が味方かわからない空間、それがハザマ。
もしかしたら知っている人はアンジニティからきた悪い人かもしれない。
もしかしたらイバラシティの人なのに悪い人に味方している人がいるかもしれない。
逆にアンジニティなのにこちらに味方している人もいるかもしれない。
だから今信じられるのは一人。
この人混みの中じゃかき分けて探しても、人が多くて見つからないし
上を見上げても見える世界は限られている。でも
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伊舎那 「グノウさんならきっとお兄様を見つけますよ あの方はお兄様ご自慢の従者なのでしょう?実際、屋敷に居た時ずっとそうでした」 |
伊舎那も言ってた、グノウは僕の自慢の従者だって、そう、僕の自慢。
屋敷でサボって隠れたりしていても、外に出て迷子になっていても、
メルンテーゼ、違う世界に行った時だって、最初は離れ離れだったけど見つけてくれた。
だから僕は大丈夫って思いながら、少しずつ人混みから離れていく。
腕にはグノウがくれたぬいぐるみ、ポプリを抱きしめながら。
人混みから離れて、ようやく認識する空の色。
赤い色、夕日とも、分割世界で見た赤い空とも違う。
暗い色が混ざっているからかな、とても不安だったり、心細さを覚える、そんな色。
夕日は綺麗で好きだけど、ここの空は好きじゃない。
そんなときだった。
何か音がした、落下音、というか何か食べ物を落としたときのべちゃっとしたような、そんな音。
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迦楼羅 「……え?」 |
それは、僕よりももっと大きな
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ・・・・・」
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迦楼羅 「なん、…で……ッ!?」 |
巨大なナレハテだった、確かにさっき倒したはずなのに。
誰かが倒していないものが僕のところへやってきた?
それとも倒したナレハテ達がくっついて大きくなった?
多分、これは僕では勝てない。
逃げるしかない、そう思って走り出そうとして手が滑った。
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迦楼羅 「あっ、ポプリ……!!」 |
ぬいぐるみを落としてしまい、そちらに駆け寄る。
人からすれば、ぬいぐるみなんていいから、とか
そんな歳になって、と言われるかもしれないが、
僕にとってはとても大切なものだ、届かなくても手を伸ばす。
目の前に立ち塞がる巨大なナレハテ、それが視界いっぱいに広がり
危ないと思った瞬間、突然目の前のそれは燃え上がった。
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??? 「迦楼羅っ!」 |
激しい炎により焦げ落ちるナレハテ。
そして、現れるのは一人の男性。
顔は怖い、何の痕だろうか、顔が普通の人と違う。
それにマフラーにロングコート、その赤とは反対の冷ややかな目。
分割世界でも知らない、イバラの記憶にもない、はず。
それがイバラシティの人間ならば。
だけど、僕はこの表情を知っている。
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??? 「……大丈夫か迦楼羅?グノウさんはどこかにいるのか?」 |
いつもだったら逃げ出したくなるような怖さ。
だけど、どこか優しくて、頼りになって、助けてくれるーー
目の前の彼がポプリを拾い上げる姿を見て、『彼』と姿が重なった。
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迦楼羅 「もしかして……としひこ、お兄ちゃん……なの?」 |
イバラシティで出会った、来たばかりの僕に親切にしてくれた
少し年上の先輩の姿を何故かこの人と重ねてしまう。
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??? 「坊ちゃん!」 |
そのとき、いつも聞き慣れた声が聞こえてきた。
いつも頼りにしている、従者の声が。
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グノウ 「なんだ、お前はーー」 |
そしてすぐに、僕の敵だと言わんばかりに目の前の人を警戒する。
でも違う、この人は、駄目だ、言わなきゃ!止めなくちゃ!!
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グノウ 「坊ちゃん、すぐにここから離れーー」 迦楼羅 「待って!違うの、グノウ!!」 |
僕を庇って武器を構えるグノウの右腕にしがみついて、それを止める。
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迦楼羅 「違うの、この人は僕を助けてくれたの」 |
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グノウ 「……助け、て?」 |
こいつが?と警戒するような鋭い視線を相手に向けながら
このやりとりはイバラシティでもあったことをグノウも思い出した。
僕が道に迷っているところ、助けてくれた、その人物の名は
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グノウ 「吉野俊彦」 |
そう、トシお兄ちゃんだ、僕もそう感じて頷いた。
でも、このハザマ空間において、お兄ちゃんはお兄ちゃんでなく
どうやらアンジニティ側の人らしい。
ということは、お兄ちゃんは……このおじさんはイバラを侵略する人?
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??? 「……話は終わったか?」 |
僕らが警戒していると、目の前のおじさんは口を開く。
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グノウ 「……何が目的だ?」 |
グノウとおじさんが話しているのを不安そうに見上げながら聞いていた。
おじさんはハザマの侵略に興味がないみたいだけど、
グノウはずっと警戒している、眉を寄せて怖い顔してる。
二人の様子をオロオロしながら伺って、ふと横を向いてあることに気付いた。
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迦楼羅 「ぐ、グノウ!」 |
先程のナレハテがまたくっつき合って、大きくなろうとしていたのだ。
さっきより大きいナレハテになったら大変なことになる。
それはグノウも分かっているのだろう、武器を握ろうとする手に力が入る。
ように見えたときだった。
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迦楼羅 「え……」 |
上に大きな影が見え、上を見上げようとすると
その大きい竜みたいな生き物がぐしゃりとナレハテを潰したのだ。
まさかあれもアンジニティ側の人なのだろうか。
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??? 「……スズヒコ」 |
そう言っておじさんは竜に向かって話しかける。
と、思ったのだが、竜は別のようで、どうも竜の上に人が乗っていたらしい。
二人とはまた別のタイプの大人の人、そして僕らの前へと降りてきた。
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スズヒコ 「……事情は大体理解している。俺も、フェデルタの案に乗るよ。 ……どうだろう、これも、何かの縁ということで」 |
フェデルタがトシお兄ちゃんの名前で、
この二人はアンジニティだけど僕達に協力してくれるってこと?
味方が増えるならきっとありがたいことだとは思うけど。
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グノウ 「……わかりました。ただ、そう簡単に信用はしません ……そこはご理解いただいても?」 |
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スズヒコ 「無論、何かあった場合、この協定は解消してもらって構わない。 なあ、フェデルタ?」 |
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フェデルタ 「……ああ」 |
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スズヒコ 「イバラシティでの縁と、この場所での縁が結びつくなんて、 そうそう無いだろうしきっと、これは悪い縁ではないと思うよ」 |
いいことのはずなのに、目の前にいる大人はみんな
上部だけのやり取りをしていた。
僕、こういうの屋敷にいたときに見たことある、大人同士のやり取り。
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迦楼羅 「……仲良くやれたらいいのにね、ポプリ」 |
一人だけの子供は、大人達を距離を置いて見ながら、ぽつりと呟いた。