12/21 sat. 晴れ
ところで、彼女の両親は、
一体どんな先天的異能を有していたのだろうか。
一体どういう形質の組み合わせで、あんな危険な異能が生まれてしまったのか。
研究心からの興味は尽きないが、
おそらく、両親の異能を辿る道は、既に絶たれている。
12/22 sun. 晴れときどき雨
最悪の一日だった。
水戸尼と二人でボランティアに向かっていたところ、
シモヨメ駅でばったりと、櫻井に会ってしまった。
昨日の今日で。
“愛が裏切られた”と思われても仕方がないタイミングだ。
それでもぼくがまだ存在しているのは、
櫻井めぐみの懐が深いから―――なのか、
ぼくのその場での、命がけの釈明が、
櫻井にとって納得のいくものだったから―――なのか、
……わからない。
ただ誓って言えることはぼくは嘘はついていないということだ。
夢のために恋愛禁止しているのも、本当だし。
今のぼくが誰とも、もちろん水戸尼とも、つきあっていないのも、事実だ。
水戸尼との交友関係について、
櫻井に予め伝えていなかったのが、失敗といえば、失敗だったのだろう。
だが普通、振った相手にわざわざそんなことまで伝えるか?
全女子との交友関係を仔細に伝えるなんて、正直キリがないし、馬鹿げた話だ。
相手も聞きたかないだろう、そんなこと。
……二人で話がしたいというので、
櫻井と水戸尼だけを残してぼくは帰った。
食欲が全くなくなってしまった。
胃が痛い。明日学校だけど休みたい。
12/23 mon. 晴れ
憔悴しきった顔で登校した、ぼく。
櫻井も水戸尼も休まなかった。
あのあと、二人だけで何を話していたのかが気になるが、聞き出せるわけがない。
昼休み、廊下でフラフラ歩いていると、田井中舎人(たいなかとねり)
――ぼくの小学校からの同級生で今は違うクラスのやつ――が、
いつものようにおちゃらけて絡んでくる。
お前は悩みがなさそうでいいよな……
と、うわ言のように呟いたことがきっかけで、根掘り葉掘り聞かれ、
洗いざらい事情を話してしまった。
……なぜ無関係の舎人に事情を説明してしまったのか。今振り返ってみれば、完全に謎だ。
きっと……ぼくは相当疲れていたのだろう。頭がまわっていなかった。
そして、誰かに聞いてほしかったのだろう。
舎人はひとしきり爆笑したのち(友人の不幸をこんなに笑えるなんて、こいつには人の心がないのか?)、
「つかさー、どうせなら同好会にしちまえばよくね?オレも参加するからさ~」
と、あまりにも能天気なことを言い出した。
ぼくは意味がわからず、ポカーンとしながら舎人に腕をつかまれ、
引きずられるようにして水戸尼と櫻井のところにまで連れていかれた。
すると、驚いたことに、
水戸尼と櫻井も、舎人と同じことを考えていたとのこと。
水戸尼は書きかけの『同好会設立申請書』を見せてみて、
「副会長は三友くんにするね」と言ってきた。
「はい……」としか言えない、情けないぼく。
話はトントン拍子ですすみ、
その日の内に顧問(2年3組、ぼくのクラス担任の藻部川)も決定、
生徒会への同好会設立申請まで済んだ。
かくして、ぼくの帰宅部人生は終わりを迎え、
独狩野中学ボランティア同好会は冬休みを前にして爆誕したのだった。
12/24 tue. 晴れ
夜。
世間はクリスマス・イブに浮かれている。
ぼくはといえば、自室で本を読むのに忙しい。
びゅうこが窓から外を眺めながら、わざとらしく大きくため息をつく。うるせぇな。
こちとら、もう色恋沙汰はこりごりだっつーの。
誰とも付き合ったことないけど。
12/25 wed. 晴れ
ボラ会は同好会として正式に認められた。
さっそく、放課後に駅前のゴミ拾いに繰り出した。
無心でゴミを拾うぼく。虚無。
今日が最終登校日だった。
明日から冬休みだ。
12/26 thu. 晴れときどき雨
今日は、水戸尼の知人――桃乃さん――の紹介で、
小規模保育園の子供たちと遊ぶというボランティアを行った。
ボラ会の面々は、子供の接し方に慣れているわけではなかったが、
桃乃さんの先導と段取りが見事なおかげで、
子供たちは終始楽しそうにしていた――ように思う。
桃乃さんは、美少女な上に名家の出身で、
だがそれらにおごることは全くなく、気さくで、
人当たりと子供受けがよく、中身まで美少女ときている。
ぼくも恋愛自主規制していなければ、
うっかり惚れてしまっていたかもしれない。
運がいいことに、桃乃さんのお兄さんである士円さんと連絡先を交換することに成功した。
桃乃さんと士円さんとは、今後とも、ボランティア活動内外を通じて、さらにお近づきになりたい。
なぜここまでぼくが彼等に執着するかといえば、彼等が、由緒正しき富武家の七人兄妹だからだ。
七人兄妹なんて、ぼくは人生ではじめて遭遇した。今どきそんなに多産の家は珍しい。
ぼくがそこに注目する理由は、言わずもがな、
ぼくの研究テーマである「異能遺伝の法則性」に関連する。
ぜひ、士円さん桃乃さんとより親密となり、
富武家全員の先天的固有異能を知ることで、その遺伝実績をサンプルデータとして収集したい。
ともあれ、そんな(ぼくは大真面目だが世間一般的には)不純ともとれる動機で近づくのを焦り、
動機を悟られれば、信頼は一気に失墜するだろう。焦らず、少しずつ仲良くなろう。
ぼくのボランティア活動の目的の一つは、人脈形成だ。
色々あって心折れかけていたが、なんとか持ち直した。がんばろう。
12/27 fri. 晴れときどき雨
水戸尼から、イバラインで通知表の結果写真が送られてきた。
ぼくが彼女の勉強を見出すまえに比べれば、確実に改善が見られた。
よかったな。
そのあとにお辞儀をするクマのスタンプも送られてきた。
「どういたしまして」と胸を張る金色ハリネズミのスタンプだけ返信しておく。
12/28 sat. 晴れ
舎人から「大晦日に神社破りしようぜ!シモヨメ駅集合な!」というイバラインが届いた。
「神社をやぶるな、このバチあたりめが」と返す。
12/31 tue. 晴れ
今年も白。
1/1 wed. 晴れときどき曇り
あけましておめでとう。
1/5 sun. 晴れ
ああ、あんなに長いと思っていた正月休みが終わってしまう……。
1/9 thu. 晴れ
何か大事なことを忘れている気がするが、思い出せない。
1/10 fri. 晴れ
金曜の夜になって思い出した。
舎人にCDを借りっぱなしだった。
週明けに忘れずに返せるよう、学校カバンに入れておこう。
2回目
1/10? fri.? 今回も、形容不能な天気
前回のあれは夢だった、、、
という願いは儚く潰えたようだ
忘れていた「何か大事なこと」は間違いなく
ぼくがいまここにいることだ
ぼくはまたハザマに飛ばされている
前回は、赤いドロドロした気持ち悪いやつの相手をして
そのあとで必死になって同行者を探した
ぼくが最初に飛ばされた場所――チナミ区 E-5:チェックポイント《出発地》――には
ぼく以外にもかなりの人数が居て、そこで探すことにした
誰かに声をかけようとしていたところで
女性に声をかけられた
ぼくはエルフに知り合いはいないし
そもそも彼女はアンジニティ民だ、会ったことがあるわけがない
だが、彼女を見た時に
どこかで会ったことがあったような気がしたのは
いったいなぜなのだろう
ハザマに見覚えがあったのと何か関係があるのだろうか
さしあたりぼくは彼女と同行することにした
彼女のことを全面的に信用したわけではないが
この感覚が何かのヒントになりうるのだとすると
それをみすみす逃すわけにはいかない
彼女と一緒に居た、もうひとりの少女とも流れで同行することになった
その少女とは、はじめて会ったと確信できる
・・・いやどちらもはじめて会ったはずなのだが
同い年くらいだろうか?結構かわいい
だがこの少女もアンジニティ民だ
全面的に信用はできない
綺麗な花には棘があるというしな