満開の桜。風に散った花びらが白くて雪みたいで
自分なりの努力が報われたんだって清々しい気持ちだった。
相良伊橋高校。自由な校風だからきっとお前も過ごしやすいんじゃないかってって
じーちゃんに進められて正直高校なんてどこでもいいって気持ちで受験したけど、番号見つけたときは嬉しかったなぁ。
電話で報告したらじーちゃんもばーちゃんも滅茶苦茶喜んでくれて、その日の夕飯がまためちゃくちゃ豪華で。
同じテーブルにばーちゃんの作ったちらし寿司とカレーライスとタマゴサラダと唐揚げと
「合格おめでとう」なんてチョコレートに書かれたデケェケーキが並んでて
あの時のご馳走は下手したら誕生日より豪勢だったかもしンねえな。
…あれからもう
一年経ったんだな。新学期ってあっという間だ。
二年経ったんだな。新学期あっという間の進級だ。
二年になってまた不良に逆戻りになった俺はそろそろ更正しようと思っている。
三年になった俺は不良を止めてまた真面目に学生をやることにした。
せっかく岬にホワイトデーのお返しを渡せたのに目の前で泣いてしまったのは恥ずかしい。
2ー2と2ー5。教室が近くてよかったな。
岬にイバラインを送った。お互いに3年になってもし会えなくなったらとても寂しい。
ホワイトデーはもう過ぎちまったけどお返し渡しに行ったら
寮母の鈴也さんに部屋に上げられてお茶とケーキ貰っちまった。高2になってからこっちは迷惑ばっかかけてンのに本当いい寮母さんだよな錫也さん。ガチのカエル好きみたいで部屋にはカエルグッズと本物のカエルがいて、ケーキまでカエルの形だった。旨かったけど顔が付いてるケーキってなんか可哀想で食べにくいな。うっかり岬に片思いしてる事聞かれちまったけどアドバイス貰えてよかったと思う。
岬に送ったイバラインで同窓会の幹事やるって勢いで言ったけど、何やるンだろうな。みんなの連絡先を調べて集まる店決めて予約して…。まあ3年になったばっかだし卒業してから考えても遅くはないか。
2年にしてあのポンコツ店員の押しに負けて結局綱吉部に入部してしまった。
入学初日はスルーしていたのに。まあ、仕方ない。いろいろ動物の餌があるっていうし猫可愛いもんな
伊藤君も進級出来たらしい。3年生になったお祝いにイバラインでメッセージを送る。俺のクラスは3ー2だ。伊藤君はクラスはどこに決まったんだろう。
魔法洋菓子店ではバイトは募集してないらしい。残念だけどクッキー買いにちょくちょく通おうかと思う。皇嶽先輩と来る約束もあるしな。先輩は卒業した後イバラシティに残ンのかな?俺も2年だけどそろそろ真面目に進路考えなくちゃな。
伊藤君は3-4にいた。同じクラスで岬が知らない男と話してた。東堂とかいうこれまたイケ好かねー野郎だったけどまァ、彼氏とかじゃないンだろう、多分。2年のバレンタインの時は岬は好きな奴いねェつってたし東堂も知り合いつってたし。
花見では魔法で出来たポメラニアンがいてスゲェ可愛くてめちゃくちゃ撫でた。場所取りしてたマクロスにデケェ声で異能の事をバラされたけど、差し入れに喜んでくれた皆の顔思うと、自分の異能をなんだか悪くないって思えた。俺の力で誰かを幸せにできる。屋上で言われた黒澤の言葉を思い出した。あいつ元気にしてっかな。甘酒飲んだり夢語ったりして楽しかったな。2年続いた高校生活もそろそろ終わり、来年は受験生か。こうやってソラコーや他校の奴らと馬鹿やったり騒いだり出来なくなるのは寂しいような不思議な感じだ。
伊藤君は3ー4の教室で小学生の時みたいにずっと一人で教室で居るみたいだ。俺も知らねー奴ばっかの教室いるのなんだか気まずいから屋上行く代わりにちょくちょく遊びに来ようかな。因縁つける以外で知らねー奴に話しかけるの俺も苦手だわ。
4月1日。高校2年最後の俺の誕生日。サイコマでケーキ買ったら店員が後輩の安里だった。安里はやたらフレンドリーで俺を含めた特に親しくもない不良と勉強会をするような奴だ。御手洗いわく彼氏がヤベー奴らしい。安里も誕生日が同じ四月らしいのでその場で買ったライターと蝋燭をプレゼントした。そしたらお返しに市販のクッキーを何枚か貰って帰った。まァ、悪くねェ誕生日だったな。
3-4で岬が散髪して黒く染めた髪の毛を誉めてくれて、でも服を着崩しても嬉しそうで不良止めるってなんなのかもうわかんねーけど岬が喜んでくれるならいいや。結婚しよ。
・ ・ ・
お決まりのハザマ。だが流れてくる情報がいつもと違う。あまりにも混乱する内容だ。
2年2組のままの俺と3年2組に進級した記憶が同時に並行して流れてくる。
なんだ?なんだ?なんなんだ?
新手のアンジニティからの攻撃か?それともイバラシティの異能力者の仕業か?
あるいは俺自身が予知能力的な異能に目覚めたのか?まさかどっちかが嘘でどっちかが本当の記憶なのか?
「伊藤君は進級してたっけか?」
平静を装い隣の伊藤君に話しかける。さっきから覇気がない。暗い表情をしている。
まァ、そうだろうな。さっきのはどう見ても動く壁とヤンキーだ。
壁はともかく問題はヤンキーの方だ。あんなのイバラシティでもそこら辺にいる。
話しぶりからしてまだ中坊っぽかったし。
トドメ刺した伊藤君がショックを受けるのも仕方ないだろう。
「大丈夫だって、見た目人間ぽいけどハザマの生き物なンだから」
何が大丈夫かだなんて俺自身も分からねェ。
むしろハザマの凶暴な生き物とかアンジニティだとか意味分かンねェ記憶だとか全然大丈夫じゃない。
ただ黙ったままの伊藤君を放っておくわけにはいかなかった。
「なぁ、忘れようぜ伊藤君。どうせ遅かれ早かれ誰かがシメてたンだ。大丈夫だって」
返事がない。伊藤君は暗い表情のままだ。話題を変えよう。返事を待たずに続ける。
「大丈夫大丈夫、俺達いいコンビだと思わねェ?俺が殴って伊藤君が補助役で」
案の定伊藤君は暗い表情で返事も返ってこないが今この場で俺だけは話し続けないといけない気がした。
深く考えたら駄目だ。
「帰ったらゲームしたいよな伊藤君。受験勉強で忙しくなる前にさ、またゲーセン行こうぜ?」
ここで士気を上げとかねェと気の弱い似た者同士の俺達は共倒れになる自信がある。
いや、そんな自信はいらねェンだが確信に似た不安を感じた。俺がしっかりしないと駄目だ。
ダチ一人励ませなくてどうする。俺はイバラシティを守らなきゃならねェンだ。
アンジニティシメる前に挫けてなるものか。それにいずれ本当に戦わなきゃならねーだろ?
その時は覚悟決めないと駄目だろ?なあそうだよな伊藤君?何か言ってくれよ。
ヤバい。一時間くらい前に俺がなってた状態と同じだ。目がヤバい。なんつーか光がない。
このままだと伊藤君こっから動けなくなるンじゃないか????つーかアンジニティと戦うどころじゃなくないか???
「伊藤君、大丈夫だよ。な?…ちょっと休むか?」
伊藤君を介抱しているとすぐ近くから俺の名前を呼ぶデケェ声が聞こえた。
この空気を読まねェ奴の声には聞き覚えがある
イーサン。河原で会った声と態度のデケェやつ。背もデケェ。だがココがハザマだからか姿が違う。
目が全体的に黒い。瞳が黒いンじゃねェ。本来白い筈のその周りの部分が真っ黒だ。
多分アンジニティだ。あとはなんか、雰囲気がイバラシティで会った時よりおとなしい
「危険な場所に子供二人捨ておく余ではない」「すべて余に任せろ」などとのたまってるが一応、
敵か味方か質問させてもらった。滝とかいう奴に教わった識別方法だ。ここで奇襲でもされたら洒落にならない。
伊藤君は精神的に参っているし、俺もそれを庇いながら戦うことなんて器用な事は出来ない。
イーサンは俺からの質問に答えた。…聞く限りの情報では味方、らしい。
良く知らねー相手が仲間っつーのは居心地悪ィがこの際背に腹は変えられないだろう。
俺達はアンジニティという集団を相手にすンだ。味方は多いに越した事ァない。
伊藤君も休ませてやりたいし、正直俺も疲れている。
本当に俺達はアンジニティをブッ潰せるのか…?
……すげェ不安だ。