―― 狂犬が!!お前なんていなかったら!!
―― あんたが居るせいで、私たちは住んでる場所をなくしたのよ!!
―― 消えろ、消え去れ!!てめぇの顔なんざ二度と見たくねぇ!!
―― 何であなたなんかがこの世にいんのよ!!
あんたなんか、生まれてこなけりゃよかったんだ!!
「っ……ふふ、……っふふふふふふ……」
あの代償は、狗神の力そのものだ。
狗神というものは、憑き主の財を喰らい、相応の力を返すもの。ただし、その財というものは一家の果てから喰らっていき、喰い果たしたとき、その者は破産し、不幸を齎すというものだ。
一種の運命操作とも言えるこの力。自分は元々、狗神だった。
狗神から、大神に……天照大神となった、オオカミである。
神として、あまりにも異例で異常な存在だ。
本来狗神が神に昇華することなどありえない。
けれど、あたしは神に昇華した。
否、してしまった。
望んだ力ではない。
なんなら、狗神と生まれることさえ望んでいなかった。
あたしは。
「あっははははははははははは!!
ざまぁみやがれ人間共が!!自業自得なんだよ、あたしを否定し、追いやった末路なんだよ!!あぁあぁいい気味だ、絶望しろ、足掻き苦しめ、もがき狂え!!!!」
ただ、狼として、家族や群れと共に生きていたかっただけなんだ。
「……。でも。
……これじゃあ、だめなんだよな。」
ひとしきり笑ったところで。
座り込んで、ため息をついた。
これじゃあ、だめなんだ。
どれだけ人間が憎くても。殺したくて、喰らいつくしたくて、気が狂いそうだとしても。
花梨は、それを望んでいないから。
花梨のために、あたしは人間を守ると誓ったから。
花梨は人間が好きだったから。だからその大切なものを、今度は守るんだ。
―― そしたら、また、笑ってくれるだろうか。
自分は、イバラシティの者らが不幸になろうがどうだってよかった。
むしろ清々した。自分の憎んだ者が、自分の力によって滅ぼされていく。
イバラシティの『あたし』は、どういうわけか酷い博愛主義者だ。あれほど酷い仕打ちを受けても、なお幸せを願う。自分より優先して、他者の幸せを願う。自分の願いを二の次にする。
正確には、自分が傷つかずにいられる方法を取った結果が、あれなのだろうけれど。
……まるで、花梨じゃないか。人間に何と言われようと、その人間を愛し続けて、味方であり続けようとした、花梨そっくりじゃないか。
同時に、自分が報復で酷い後悔をしたせいか、報復を心から望まない。どれだけ人間が憎くても、その憎悪を決して振りかざそうとしない。
あたしが『そうしよう』としていることが、しっかりとあちらのあたしにも受けつがれているような気がした。
―― 気に喰わない あんなもの、あたしじゃない
―― あんな、人間のために利用されて、人間と仲良しこよしして
―― 果てには、そんな人間のために己の力を振りかざそうとする
―― あんなもの。ただの博愛の狂人だ
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おいなり 「 ひとつ、お願いがございます。……わたくしめは、あくまで分体でございます故。どうか、イバラシティでのわたくしを、どうか……殺してでも、止めてほしいのです。」 |
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ちわわ 「 なるほどな。……けれど、いーのか?殺したり、止めなかったらお前だってイバラシティで暫くは過ごせるだろうに。」 |
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おいなり 「 構いません。あのようなわたくしなど、害悪でしかありませぬ。そもあれは、最早ただのケダモノでございましょう?」 |
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ちわわ 「……まあ、うん。ごめん。否定できねぇわあたし。」 |
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おいなり 「事実を無理に否定しなくてよいのです。わたくしは、貴方様が幸せで在れるのであれば、それ以上の喜びはございません。というか。 あれをわたくしと思いたくない。一刻も早く消し去ってほしい。」 |
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ちわわ 「めっちゃ毛嫌いしてんなぁお前。 まあ、そこは……向こうのあたしがどーすっか、だなぁ。こっちの記憶が持って帰れたらよかったんだけどなぁ。そーいうわけにもいかねぇし。
まあなんだ。強く生きて。」 |
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おいなり 「強く生きたら貴方様にご迷惑をかけるしあのような醜態を晒しっぱなしになるではございませんかやだーーーーー!!!!」 |
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ちわわ 「ごめんて、ごめんてーーーーーーーー!!」 |