戦って、戦って、戦って…次第に、この世界での戦闘に慣れてきた。
こちらの世界では、何となくだけど異能の力が強くなっている気がする。
いつもなら、糸の制御にもっと手間取っているのに、こちらでは思うように動いてくれる。
「……少し、気持ちがいいですね」
練習試合の途中、ダウンした状態で空に向かって呟いた。
相手の攻撃に吹っ飛ばされたのにも関わらず、口元には笑みを浮かべる…悪くない。
自分の力を思うままに使うことが出来る…思いどうりに出来なくて少し歯がゆい思いをすることがない…
この気分は、悪くないなと思った。
また1時間が経つ。
また、夢に堕ちていく…
再び、夢を見る。以前よりもずっと、優しい夢だった。
分かっている。夢では無い。
これは、本当の世界で私が経験している記憶、
色んな人と触れ合い、悩み、笑い、楽しく過ごせている。
そして、大事な人と出会えて、幸せそうに眠る。そんな私の記憶…
あれは、本当の自分だと言ってしまっても良いんじゃないだろうか…
でも…あの子と過ごしていた日々も、とても輝かしい物だった…
流れ込んでくる記憶にかき消されるのを拒むかのように、茜差す教室の記憶も浮かんでくる。
剣道部の練習の後、手芸部の部室に顔を出す。
あの子はいつも最後まで残って、自分の作品を一生懸命に作っていた。
私は正直、剣道は真面目にやっていたわけでもなかったから、一生懸命なその眼差しが好きだった。
だから、彼女に縫い物を教えてと頼んだ。
快く教えてくれる彼女に、なんて言われたっけ…
そうだ
『そんな異能なのに、環ってちょっと不器用だよね』
頭の中は冴えているのに、記憶だけはままならない…
どっちも、大事な思い出…あの街にはそれが詰まっている。
『ま…ら…きゃ』
うん
『まもらなきゃ』
守らないと…あの場所を
決意すると共に、心の中に何か熱いものを感じる…
新しい…いや、ずっと私が持っていた力…
これが、元々私の中にあったもの
心の中にある灯火…
神社+草メンバーは険しい山道を登っていた。
登り始めてから1時間、進むペースは前の2時間の半分程度まで遅くなっている。
それでも
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タマキ 「ぜっ…はっ…き、きつ…」 |
剥き出しの岩肌そのままの斜面は、普通の坂道とは違って脚の運び方から考えないと進めない。
時には階段のように登り、時には脚が挟まったり滑らせたりしないように慎重に置き場所を探す。
そして、時にはロッククライミングよろしく、よじ登る。
そもそも直線距離では進めないので、実際に歩く距離は移動距離よりずっと長い。
そんな風に進んでいれば、スピードが半分といっても疲れは倍な気がした。
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タマキ 「も、もうちょっと…ツクナミ丘陵とかで山登りの練習をしておくべきでしたね…」 |
元より体力が無い環は、運動してなかったことを今更後悔していた。
だが、登り始めたなら終わりは来る。ようやく山頂の切れ目が見えてきた。
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タマキ 「…あと…ちょっと!」 |
…そんな希望が見えてきた時というのは、得てして良くないことに遭遇することが多いタイミングでもある。
山頂に近づくということは、高い位置から周りを見回すことが出来ることに加えて、
同じく山を登っている者同士が合流する。そんな可能性が高いポイントでもある。
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タマキ 「…あ」 |
ふと横を見たら、別のルートで登っていたのであろう集団がすぐそばに居た。
こちらが気がついたとほぼ同時に、相手もこちらのことに気がついたようだ…
遠目から見ただけだと、相手は女の子だけの4人組のようだが…
どうやら、友好的とは言えないような雰囲気が漂い始めた…
そんなまさかと思ったが、クロスローズで届いたメッセージの中には、既に何者かに襲われたという連絡もあった。
今も無事なのかどうか心配だが…油断すれば、同じ轍を踏むかも知れない。
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タマキ 「……やるしかないのかな?!」 |
こちらの世界で、初めての
侵略者との戦闘が始まろうとしていた。
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(……もし本当に、相手が本気で襲ってくるのだとしたら…いや、試すなら、今なのかな) |
不安はあるが…手段を選んでいる場合ではない…ならば
使える能力は、全て使ってみよう。
何故だろうか…自然とそう思える。抵抗感が無い。
あれだけ怖かったはずのリスクも、今は感じない。間違いなく制御出来る確信がある。
…それはそうか、元々これも私の異能なのだから。
……それに、使う相手は侵略者…
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((うん…傷つけることを怖がる必要は、無いですね)) |
自然と、そう思った。