「・・・お前は誰だ」
「"わたし"は"私"の一部、正確にはそうではないがな」
「意味が分からない、もう少し分かりやすく言ってくれ。
それとも何か難しい言い方をしなくてはいけない理由でもあるのか?」
「そんなものは無い、断じて。
・・・いつも収束・発散の力を使っているだろう?
"わたし"はその力そのもの、つまり異能の正体」
「何だって? それじゃあお前がいないと私は力が扱えないのか?」
「そういうことになる。
とはいっても"わたし"は"私"から離れられない故居なくなるなどという事はない。
その点においては安心してもいい。
しかしどういうわけか"私"の記憶共有はレプリカの記憶だけらしいな」
「待て、今私と二回言わなかったか?」
「・・・? "わたし"と"私"
きちんと使い分けているが」
「・・・」
「何、じきに感覚で分かるようになるだろう。
それまではその頭でじっくり考えるといい」
「・・・もう一つ聞く、お前は何故あのような事をする」
「・・・?」
「無防備な猫を襲ったこと、からくり屋敷の主に手をかけようとしたこと。
そして杜若を陥れようとしている事だ。
知らないとは言わせない」
「・・・まさか"わたし"があのような後先考えない情緒不安定へなちょこ外道と同じとでも思っているのか?
まったく、答えはNOだ。
確かに向こうでの"わたし"はレプリカという存在になっているらしい。
ご丁寧に過去の記憶も"わたし"の記憶とよく似ているときた、向こうは封印だけで済んだらしいがな。
だが奴は所詮仮初の記憶を与えられた別人でしかない。
"わたし"はそれを割り切っているつもりだが」
「・・・」
「では逆に質問しようか、自分の事をずっと薊 柳だとでも思っているか?」
「それ、は」
「ここまでハザマでの"私"の様子をずっと見てきたが・・・
仮初の思い出を割り切れていない、ずっと毒に侵されたままだ。
自ら地獄への道を歩いている、何故だ?
何故自分から心を壊しに行く?」
「・・・違う、あの出来事は全てが本当なのだ。
私は、思い出を、友達を、忘れたくない」
「正気とは思えないな、いつか全てに裏切られるぞ。
それを分かっているのか、誰も助けてはくれない」
「私の友人は、そんなこと、そんなこと」
「・・・よーく分かった、"私"は侵略者に相応しくない事もな。
いずれ後悔することになるぞ。
・・・いいんだな?」
「私は――」
「・・・」
気が付くとそこに立っていた。
頭が痛く数分間の事が思い出せない。
周りには三人の友が居る。
ふらりふらりと、そこから歩き始めていく。
希望という名の絶望が口を開けて夢を望む"私"を待っている。
"わたし"以外に"私"など理解できるものか。