ザザ・・・ザ・・・
Memories・「Dahlia Lobelia」
親愛なる神様へ
貴方に全てを語らなければならない
私の名はダリア・ロベリア
始まりからここまで 私の全てをお話します
私の生まれた家は実力主義の世界でした
成功し続けた者だけが希望を掴み取り
失敗した者は絶望の底へ叩き落される
今にして思えばまさしく地獄と呼ぶのがふさわしかったでしょう
私は7人兄弟のちょうど下から3番目
幼いころから年上の4人を追い越すようにと教育を施されてきました
・・・
産まれた時から才能があったのか
あるいは幸運だったのか
私は他の兄弟をどんどんと追い抜き
いつしか兄弟達の中で一番となっていました
両親は毎日私を甘やかし
私も両親に答えるべく課題をこなしてきました
・・・子供ながらにして私の中では一つの疑問が生まれていました
「ここまで頑張る必要はあるのか」と
・・・
6歳のころ
とある失敗をしてしまいました
それはとてもとても小さなことでしたが
両親はいままでに見たことないほどの恐ろしい表情をしていました
ひとしきり怒られた後 私に「ついてこい」と言いました
私は言う通り両親についていきました
扉を開き 階段を降り また扉を開き
辿り着いた先は牢獄 私は直感的に理解しました
「牢屋に閉じ込められてしまう」と
一瞬の内に恐怖が私を包み込みました
しかし その予想はあてが外れていたのです
両親はとある牢の前に立ち止まり 「そこで見ていろ」と言い放ちました
牢の中には私の一歳下の妹が板のような物に首を固定されていました
両親は牢の中へ入り 彼女の傍に近寄り それで それで――
あれから私は必死に成功を重ね続けました
他の兄弟には目もくれず
一番上の長男は私を殺そうともしてきました
しかし 失敗が続いたのかいつしかその姿は見えなくなりました
次男は私が4歳のころに幾ばくかのメイドと共に行方不明となっていました
三男は私に何度も助けを乞いに来ました
しかし 私はそれを何度も何度も一蹴しました
次第に彼は両親からの暴力の跡が残るようになりました
それでも私は助けを一蹴しました
4番目の長女も同じように助けを乞いましたがその全てを見なかったことにしました
必死だったのです 再び失敗してしまった時 どうなってしまうか
牢獄で見た光景が脳に焼き付いて離れませんでした
・・・いつしか長女の姿を見ることはなくなっていました
・・・
父親の影響だったでしょうか
このころから私は神様の存在を信じるようになりました
不安な時や失敗しそうな時はいつも神様に祈っていました
そうすると絶対に成功する そう思えるようになっていたのです
次第に私は神様に恋心のような物を抱いてしまいました
・・・変な話ですよね? 貴方にこんな事を話すなんて
とにかく私は兄弟を見捨てて幸せを掴み取ろうと必死だったのです
・・・きっと私は最低な女だったのでしょう
そして9歳のとある日
両親はどこかに出かけていったきり 二度と帰ってくることはありませんでした
同時期 ロベリア家に不満を持った人々が一斉に暴徒と化しました
私は命からがら家から逃げ出せる事に成功しました
兄弟はどうなったのか 私は知る由もありません
それから5年間 あてもなく歩き回りました
その時の私は両親を探そうとしていたのかもしれません
遺産のおかげでしばらくお金には困りませんでしたがそれもつかの間
いつのまにか野宿が当たり前となっていました
それでも生きながらえ 14歳のころにとある島にたどり着きました
その島の港で暴徒に襲われました
彼らはロベリア家に強い恨みを持っていたのです
もう駄目だと思った時 一人の男性が暴徒から私を救ってくれました
その男性こそが「薊 杜若」
私の恩人であり 大切な人です
彼は私を時計屋に連れていき 衣食住を約束してくれました
そのころから彼は優しい人だったのです
その代わりに私は時計屋の手伝いをするようになりました
・・・
それからの5年間 私は充実した生活を送りました
いままで必死になって頑張ってきた反動でしょうか
アニメ・ゲームを知り どっぷりとはまるようになったのです
薊さんはずっと私に優しくしてくれました
もはや前までの完璧な自分で居なくてもよくなったのです
それでも私は神様の事を忘れる事はしませんでした
これはきっと神様が見守っていてくれたおかげですから――
19歳 ある夏の日の出来事でした
私は薊さんと出会った港で海を眺めていました
ここから見る景色はとても美しい物でした
・・・日も傾き始め 帰ろうとした時です
一人の少年が話しかけてきました
子供ながらにしてとても老人のような喋り方をしていたのを覚えています
それに風貌がどこか非現実的のような・・・
彼は私にこう言ったのです
「――あの男の役に立ちたくはないかの」
私は 戸惑いながらも頷きました
次の瞬間 目の前が真っ白になりました
・・・
気が付くと少年は居なくなっていました
・・・右目に違和感を感じました
まるで元々このような目だったかと錯覚するほどに
異能 「魔眼:実像と虚像の逆時計」が目覚めたのです
・・・時計屋に戻った時 私の右目は過去の真実を写したのです
「薊 杜若」はかつて行方不明となった次男 「オトギリ・ロベリア」でした
そして 私の両親を殺したのは彼であることを知りました
それだけではありません 彼は犯罪者を何人も殺していたのです
何故か 恐怖は感じませんでした
そして 私が見た光景を言う事も 咎めることもしませんでした
これまで共に過ごしてきて分かったのです
彼は大事な物を守ろうとしている
私もまた 彼の大事な存在になっていました
・・・
そして今
私はこの場で神様に語りかけています
兄弟を見捨てた事
薊さんの殺人を見てみぬふりしていること
これらはきっと許される事ではないでしょう
だから 私は貴方に話すのです
彼がすべてを背負う必要はない
罪滅ぼしのつもりではありません ただ私も彼を 店の皆を守りたい
・・・神様に誓って
脅威を振り払う眼となります
私は今も神様を愛しています
だからどうか見守っていてください
ザザザ・・・プツンッ
一瞬、何かが頭の中を駆け巡ったような気がする。
すぐに思い出そうとするものの既に記憶の彼方に消えていた。
それは誰かの懺悔かもしれないし決意だったのかもしれない。
ここに来てから随分と時間が経った。
記憶がどうもおかしくなっているような気がする。
私は頭を押さえながらも三人についていく。