【第九話 御鏡神社の座標】
ここは《ハザマ》世界のチナミ区N-7、本来のイバラシティでは御鏡神社がある座標にあたる。
現実世界と《ハザマ》世界では同じ座標でも建造物も地形も全然違うので当然と言えば当然だが
この場所に御鏡神社の建物は無かった。
拍子抜けしたような残念さと、そして現時点では御鏡神社が襲撃を受けていない事への幾分の安堵もある。
ここは龍脈・龍穴(霊的なエネルギーの通り道)の通り道。いわゆる文字通りのパワースポットだ。
本来の御鏡神社においてはそのパワーは御鏡神社の神主である私にとって有益な力となるのだ。
しかしこちら側では御鏡神社と違い『場』を制する力によって制御されていない原初の力が大地を走っている。
それも、本来の世界にある力とは異なるおそらくアンジニティ由来の、少し良くない物も混じっているようだ。
此処にあまり長居するとその荒れ狂うパワーに「酔って」しまうかもしれない。
この辺りは各チェックポイントへの最短ルート上では無いので付近にいる「団体戦の参加者」は少ない。
そんな人の殆ど居ない山道で出会ったのは4人組の女子、そしてアンジニティ勢力の接近を示す警告音が鳴る。
にわかに信じがたい事に『Cross+Rose』の識別機能によると彼女達はアンジニティ陣営のようだ。
侵略戦争の戦闘員然とした雰囲気では無いが、これは【影響力】を競う団体戦…というルールが頭によぎる。
もしかするとアイドル的な人気を得ることも影響力の向上に繋がるのだろうか。
あまり手荒な事をするのは気が進まないが降りかかる火の粉は払うしか無いだろう。
考えようによっては殺し合いでは無く影響力を競う戦いというルールでの初勝負としては良い相手かもしれない。
練習試合の時のようになるべく怪我させないように「ざっくりと戦闘不能を目指す」としよう。
【第十話 梅楽園に集うもの】
《ハザマ》世界の梅楽園にて屋台のお店が存在している、という情報が入った。
本来のイバラシティではチナミ区O-16に梅楽園があるが、ここは《ハザマ》世界である。
『Cross+Rose』で表示される地図では《ハザマ》世界でのチナミ区O-16は「森林」マスとなっている。
大前提としてこの《ハザマ》世界には『団体戦』と無関係な普通の住人は存在しない。
遭遇したら問答無用で襲ってくる怪物達には対価を払って買い物をするという概念は無いだろうから
他に存在しているのはアンジニティの侵略者とイバラシティの異能者、そして案内人的な『中立』の関係者達のみ。
仮に中立の者が商売しているとしても採算が取れるとは思えないが、気になる所ではある。
もう一つ、ヒノデ区L-12のチェックポイントは付近の多くのマスを壁に囲まれた仰々しい雰囲気を纏っている。
『Cross+Rose』の地図によれば完全に囲まれているわけでは無く抜け道或いは壁の破損した部分が有るようだが
ハザマ土着の怪物がイバラシティ住人にもアンジニティ側の侵略者にも襲いかかっていることからも判るように
ハザマ勢力=アンジニティ勢力では無いので仮にこれが《ハザマ》世界における砦のような物だとしても
それはハザマ勢力のものでありアンジニティの軍事施設というわけではないだろう。
しかし数に劣るアンジニティ側が無人の砦を占拠して立て篭もるという作戦を取る可能性はある。
ここから向かうには若干遠いが、こちらも気になる所ではある。
【第十一話 PS(パワーストーン)という通貨】
この《ハザマ》世界ではPS(パワーストーン)が食品等の対価としてやり取りされているようだ。
《ハザマ》世界の商人が扱っている焼きそばパンの価格は一つ50PSだった。
PSは《ハザマ》世界の各所に落ちているようだ。道中見かけたらなるべく拾っておこう。
パワーストーンと言うからには何らかのパワーが得られるのかと思いきや、特にそういうわけでは無い。
日本銀行券のように政府が価値を保障しているわけでも、PSそれ自体に利用価値が有るわけでもない。
それなのに当然のように通貨として流通しているのが不思議である。
しかし50PS出せば焼きそばパンと交換できるという事実は焼きそばパン調達手段という以上の意味がある。
それは我々の間でもPSを通貨として、焼きそばパン○個分、という形で取引が成り立つからだ。
物資を持ちこめない 《ハザマ》での食糧、故にPSはゴールドと交換できる金本位制と同じで価値に根拠が生まれる。
日常のイバラシティでは《ハザマ》の記憶は無いので『護国機関』が日本円で報酬を支払う事は出来ない。
侵略阻止という共通の目標だけではイバラシティ住人同士でも一丸となって協力態勢を取るには難しい状況だが
物資の調達や情報収集等に直接的な対価を提示できるならば話はスムーズに進むはずだ。