
―― 2020.1.30
■検体Cに宿る神
天照大御神と似た存在であるが、性質が似ている別物である。彼女は元々は狗神であり、狼であった。狗神から神へと昇華した、異例の存在である。
ハザマ、及びアンジニティでの存在が、イバラシティの人間の肉体に宿っている状況である。本来の彼女は中に宿っている神であり、彼女自身は『偽物』と言えるだろう。
■検体Cの封印
本来彼女は天照大御神を、あるいはそれをも超える力を内包している。しかし何者かに封印を施され、ハザマ、及びアンジニティでは1割程度の力しか振るうことができない。
因みにイバラシティでは、本来の姿で彼女に宿っている。しかしアンジニティでの記憶、及びそれ以前の記憶は他の者ら同様消えている。世界の理は例外なく受けているようだ。
これは推測だが、彼女のイバラシティの人型はこの封印から成っているものではないだろうか。そうすれば神自身が人に化けていない(人型に神が乗り移っている、神降ろしの状態)であることも、宿っている神が封印されていない姿であることも説明がつく。
今日は、 あたまが
いた
ひどく い
ひび く 鈴の ィ 音 が
いた イ た い た い
たい いた い 全然 収まって くれない
すぐに 治ると 思って いた のに
けど 鈴の音 が 響いて ずっと 鳴り響ぃ て
て が 伸びる 誰かの 声が 誰かに とど い て 、
―― 『とある海巫女の手帳』より
著 ツワォツ・エトパァイエ
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―― シャランラ シャランラ 鈴の音が聞こえる
―― シャンララ シャララン 鈴の音が響く
ボクの家系は、代々から海竜神に仕える巫女を務めていた。不思議な力があるとされていたけれど、その力が顕著に出たのはある病気が流行って、■■■となったボクのお母さんからだった。
とはいっても、海竜神はずっとボクたちを見守ってくれてて、力を貸してくれていた。数代前からつながりがあって、ちゃんと恩恵は齎してくれていた。もちろん恩恵は、■■■となってからの方がずっと強いんだけど。
ボクの家系は生まれながら海竜神の巫女になることが定まっていて、一子相伝で秘術を……詩を、受け継いできた。海竜神の力を借りるための祈りの詩。感情を、心をそのまま歌うのだとかなんだとか。
18になったら、正式に後継ぎが決まる。後を継げば、先代は力を使えなくなる。だから18までは巫女見習いとして、先代の術を学ぶ。
ボクは海竜神が大好きだった。お母さんも大好きで、この仕事にも誇りを持てた。
しいていえば大学に行けないことと、友達と遊べないことだけが心残りだった。遊んできていいと、もっと好きにしていいとお母さんは言ってくれたけど、ボクは■■■として戦わなければいけなかったし、強くなかったから。だから、後を継ぐために今のうちにたくさん勉強して、力をつけて、立派な巫女にならなくちゃいけない。
だからボクは歌った。毎日毎日歌った。
少しでも人のためになりたくて。
変わらず、誰かの原点になるために。
誰かの始まりとなって、ボクはその始まりの目印であり続けられるように。
変わらない強さを、誇示していく。
それが、ボクのできることだと。
やりたいこと。やっていきたいこと。
それが、出会った人への感謝の示し。
ボクという存在を守ってくれた人への恩返し。
こわれる 崩れ落ちる
―― 手段なんて選んでられない
不変だったはずの想いが壊れていく
―― 親友を見つけるためならなんだってする
吐き出したい言葉も 感情も全部飲み込んで
―― 大丈夫 まだボクはボクでいられる
偽りの世界で 偽り抜いて 利用して 生き ろ と
シャランラ シャランラ
夢を見る。鈴の音が鳴る。
音守りの音が、鳴って、生って、為って
―― 記憶にない景色を見る
「海神の巫女として、音を持って尽くすことをここに誓う。
我が歌は祈りとなり奇跡となる。神の奇跡を我が身が代わりに約束しよう。」
鈴を、神楽鈴を受け取る。
鈴を身に着け、霊衣を纏い、継承の詩を歌う。
「―― Wee yea ra ene foul enrer」
2月2日。この日で18になる。
この日を境目に、正式な巫女となる。
海竜神に、この身を捧げることを誓う。
かの竜を信仰する者に、かの神の奇跡を齎すことを祈る。
歌う。
歌う。歌え。
歌え、歌え、歌え、詩を、詩え、うた、を、
「―― Wee yea ra ene foul enrer
Wee yea ra ene hymme syec mea」
違う。
「―― Was yea ra hymme mea ks maya gyen yeal
innna ar hopb syec mea ya.ya!」
―― ちがう。これは。
「―― Was yea ra chs hymnos mea!!」
ボクの、うたじゃ、ない!!!!
「げほ、がっ……げほ、え、ぉ゛お゛っ……ぇ゛……っぇ゛……、」
夢から覚める。吐き戻す。頭が痛い。
違う。こんな歌は知らない。いや、知っている。知っているけれど、これは知らないはずの、歌。18になる、その時まで触れることのない、歌の、はずで。
「―― どうして。」
響く。声が響く。頭に、強い強い感情が、響く。
「―― 契りは破られた。心から信じていたのに。
やはり人間は滅ぼすべきだったんだ。人間を信じた私が愚かだった。」
「どうして。……どう、し、てっ……」
「どうして。どうしてどうしてどうしてどうして。」
「なん、で、」
「さあ、深く、深く深く来てください。」
「違う、そうじゃない、戻ってきて、まだ」
「ねぇ」
「私を、探しているんでしょう?ツワォツ――」