
いつもよりも暗く、紅い夜空…逢魔時(おうまがとき)
自室で空を見上げていた環の元にも、その声は届いていた。
白大甕 環
(しろおおみか たまき)
ヒノデ区、古甕神社(こみかじんじゃ)で暮らしている女性。右目と左手に包帯を巻いている…
アンジニティの侵略が始まっている。街を守らなければならない、と…
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タマキ 「…なんだか、前にも似たようなことがあった気がする…」 |
そう呟いて、変な色合いをしている夜空を眺める。
以前も、ある日一斉に、多くの人が同時にメッセージを受け取った。
そんな事件があったような気がするけれど、記憶にはモヤがかかっている。
結局、その時は何事も起きなかった。
そう、何事も起きなかったのだ。
…でも、これで2回目、何事も起きないからといって、何もしないで良いのだろうか?
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タマキ 「何事もなければ良いけど……備えておかないと、いけないかな…」 |
町全体を巻き込む何か…“侵略戦争”が、本当に始まっているとしたら…
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タマキ 「その時は、どうすれば…良いのかな…」 |
そう呟いている間に、目蓋が重くなってきて…
窓辺に置いてある鳥籠の脇で、そのまま眠りについてしまった。
どうすれば良いのだろう。
私の大事なものを守るには、どうすれば良いのだろう。
あの者達は、一度失敗をした。
それで諦めることはなく、もう一度同じ方法を取り、また失敗をした。
その手段は、比較的穏便な手段だったと言える。
だからこそ、我々は交渉だけで、口八丁だけで相手の目論見を挫くことも可能だった。
『穏便な手段を取ったのは、お互いに被害を出したく無いからだ。
それで奴らは二度も失敗をした。流石に諦めるだろう。』
と、皆は口を揃えて言う。
でも、もしも、そうでは無かったら?
目的を達成することを優先するような連中だったとしたら?
もし、穏便な手段で懐柔することが困難と判断されたら、次に相手が取ってくる手段は…
強硬策だ。
もし、そうなった時…私はどうすれば、大事な物を守れるだろう…?
…そうだ、もしもの時に協力出来る相手を探そう。
共闘出来る仲間を探そう。
そう思い立って、私は住まいを飛び出し、各地の主の元を訪ね歩いた。
誰か1人でも良い。
力を貸してくれる誰かが、1人でも居てくれれば…
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タマキ 「…あれ?ここは…」 |
気がつくと、見知らぬ場所…では無い、見たことのある場所にいた。
まだら色をした空に、荒涼とした景色。そして、時計塔と…1人の男
『…はい、というわけでシロナミです。よろしくお願いします。』
如何にも気だるげな口調で、男がこの場所の説明をし始めた。
が、環は半分も聞いていない。
朧げで、ほとんど思い出せないような感じだが…この場所には何となく見覚えがある。
その時はとても怖くて、実際にこの直後に命の危険を感じることが…
『そんでもって…何かおいでなすった。』
男の声が聞こえた直後、自分自身の背後から何かの唸り声がする。
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タマキ 「…はぁ……」 |
振り向くと、そこには赤いスライムの様な変なものが…
ナレハテ、と男が呼ぶその響きにも、どこか既視感を感じていた。
男に言われるまでもなく、糸をナレハテに巻きつけて、そのブニョっとした体を…
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タマキ 「また…ここですか!!」 |
色々な感情を乗せて、力任せに糸で放り投げた。
投げ飛ばされたナレハテは、哀れ地面に叩きつけられ…
文字通り、地面の染みのような存在になってしまう。
この場所だからというのもあるが、以前より異能の出力が上がっている…
そのことに、この時はまだ気が付かなかった。
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タマキ 「…分かりました。戦えば良いんでしょう?…はぁ、早く家に帰りたい…」 |
そう言って、男の前から歩き出した。
二度目、だからだろうか?行動するべきことがすぐに思い浮かぶ。
そう、まずは一緒に行動する人を見つけなければ…
そう思った矢先、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
どこか聞き覚えのある、少女の叫び声。
それが聞こえてきた方向に向けて、走り出した。