魔王を倒したあの後。
魔王の力で維持されていた神殿は崩壊を始め、私達は疲弊しきった身体を引き摺ってどうにか脱出を果たして、脱出と同時にそのまま全員ぶっ倒れた。

なのでこの日記は、魔王を倒した翌日、正確には獅子の月1日の日記となるのだけれど。
魔王を倒した事を記録に残したいから、この日付で書こうと思う。

…そう、私達は勝った。
私達の勇者は、勝利を掴んだのだ。


今日、改めて崩壊した魔王の神殿を見ても、まだあの戦いがどこか夢の出来事だったように思えた。
けれど、今日、周囲を偵察していたグリフが報告する事には、あれだけいた魔物が一匹残らず消えているのだという。
恐らく神殿と同じ様に、魔物も魔王がいなくなったので存在できなくなったのだろう。
…消えた先が彼らの故郷である闇の世界とか、それとも無かは分からないけれど。
できれば前者であってほしい。此処の魔物は、私達にも良くしてくれた。
各地で魔物の爪痕が残る無理でも、爪痕が消えたいつかの未来、魔物と人が共存できる日は来ると信じていたい。


――おめでたい日記にするはずだったのに、少し暗い話を書いてしまった。
ともかく、私達は魔王を倒した。
魔物が消えたのが私の推測通り魔王が滅びたのが原因ならば、世界各地でも同様に魔物が消えているはずだ。
そうなれば、人々は皆思うだろう。"勇者"ディラックが魔王を討伐したと。

これでディラック達は、晴れて英雄の一員だ。
私やグリフは興味など無いが、父に疎まれていたディラックや、聖女候補と目されながら危険な旅に同行させられたヴィルムにとってこの意味は大きい。

父王はディラックをないがしろにできなくなるだろうし、魔王の討伐という功績がある以上、次期聖女はほぼ確定でヴィルムになる。
二人が心痛めていた問題も、これできっと前進する事ができる。
魔王を倒した事そのものよりも、私はその事が嬉しかった。



ところでもう一つ。同じくらい嬉しい事がある。
帰ったらどうするか、とディラックに問われて、私は世界を回ってみるつもりだと答えた。
私の故郷はもう無いし、英雄として崇められるのも御免だ。
それなら平和な世界を歩いてみるのも悪くないかもしれない――なんて考えて。

考えていたのだが。
ディラックは私の両手を取って、真剣な眼で、一緒に暮らして欲しいと言ってきた。

……まあ、つまりはそういうことだ。
私も薄々は感付いていたし、グリフやヴィルムには私の想いも込みでバレバレだったから今更だし意外性も無いのだけれど。

それでも、嬉しかった。

きっと今日は、私の生涯で一番幸福な日なのだと思う。















ところで一つ、気になる事がある。

魔王との戦いで、私はありったけの魔法を使い続けて、神殿を脱出する時はほんのわずかしか残っていなかったはずなのに――



どうして、私の魔力は満ち溢れているのだろう？

　まいらはこんらんしている

　水龍がどのぐらい速いのか説明しないあたり、本人も把握しきれていないのだろう

　そう言うと、スカルは深々とお辞儀をして立ち去った
　――そして数日後

雰囲気の変わったスカルが、再び話しかけてきた

　

　フィーグルの話を黙って聞く。
　何かを言おうとして、言葉に成らず、ただ感嘆の息が漏れる。
　自分には想像もつかないような人生を、この人は歩いてきたんだろうなと

　やはり言葉に成らない。
　しかし、たしかに、何かを受け取った気がした。

　

　それは何か違う気がする。

インコは戸惑っている。

活き活きと話をする辺り、やはり商人としての自分が好きな様です。

自分自身が魔物だからか、魔物を作れると聞いて興味を示しています。

照れるのを隠しつつも、やはり嬉しいのか、
今度は言葉をしまい込むように胸に手を当ててふーっと息をつきます。

その一言を反芻したのち、考え込むような素振りを見せる。
暫しの沈黙をおいて、それからフィーグルに問うた。

特別、衝撃を受けているだとか、落ち込んでいるだとか、
そういう訳では恐らくない。
単純な確認としての問い掛けだった。

それからフィーグルの推察には、ああ、と一度頷いて。

などと、他人ごとのように。

何か、重々しい色を、声に孕む。

　そう訊いてから、続いた言葉に押し黙る。

　***

　放つ言葉に、遠慮なんてものは存在しなかった。ざくざく。
　彼女が少女とエンブリオの関係を、『仲間』と称したのなら、頷いて。

　連れ歩かない、と聞いて不思議そうにしていたが、それから続いた言葉には。

ぺこり、と一礼

ふ、と気付いたように