好む好まないかは全くの別問題として、人間社会で暮らす以上、人は何らかの役割を与えられている。
役割と言えば酷く聞こえが良いが、もしかしたらパズルのピースとして例えて良いのかもしれないし、人によっては絵画のパーツと例える者もいるだろう。
それは街の中に溶け込むように暮らす人々は勿論の事、冒険者という世間的に見れば社会の爪弾き者のような生き方をする者であっても同様だ。
其処に違いがあるとすれば、与えられる役割の違いだが、大きな視野に立って見れば、人は皆等しく社会における何らかの役割を担っている事になる。

　しかし、中には与えられた役割に対し不適切な行動をする者が現れるのは全く自然な事だ。
それはかつて、出身世界において属した組織の人間達と対立し、出身世界より放逐されたこのオレだからこそよく分かる事だ。
「出る杭は打たれる」という諺は多くの分割世界共通の諺らしいが、与えられた（求められた）役割を粛々と受け入れない者は、人間社会においては邪魔者であるのは確かなのだろう。

　オレのケースでは「出る杭」が正に打たれた形で、すぐさま事態の沈静化が図られた。
出身世界を追放された今となっては、その後の世界の事など分かる術も無いが、きっと何事も無かったように全ては平常に戻っているのだろうと予測できる。
これは一介の冒険者という（世間的に見て）小さな役割だったからこその事だ。
もっと（世間的に見て）大きな役割の人間が「出る杭」となったら、どうなるのだろうか？
きっと、その杭の周辺は大きく揺れることだろう。もしかしたら、その余波は広く広がり世界一つを揺さぶる事になるのかもしれない。

　「メルンテーゼ」の「新王」はまさしくそのケースだ。
例え新王が、一揆を封じたとしても、彼（彼女？）は社会の何らかの役割を再び背負わされるのは疑いようもない。
それは人間社会に住む以上は誰しもが逃れられないものなのだから。
ただ、それでも新王は自分が本来収まるべきと方向付けられた役割に対し異を唱え、このメルンテーゼに大きな衝撃を齎した。
新王は大人しく前王の真似事をすることが出来なかったのだ。

　オレの勝手な共感なのだろう。
相変わらず、この世界の今後については特段興味が持てないでいるが、新王という人間に対しては若干興味が沸いてきている。
世界一つを揺るがす「出る杭」となった人間をこの眼で見たくなって来たのだ。
例え、この眼で見る事が＝「出る杭を打つ」事に繋がるのだとしても、それは仕方ないことだろう。

　新王がその自身の力量で杭を打つ者を捻じ伏せて、自身の意図する役割に付くのか。
それとも、やはり杭として打たれて消えるのか。
その決着を見届けるのは、きっとこのグレイナードにとっても悪くないことなのだろう。

脱いで、ふう。とひと息。

　
　　　　　　とても嫌そうには思えない口調で、手をひらひらさせる。　

　
　　　　　　唇に人差し指を当て、呟いた。