モックはアニマに制御を明け渡し、マルはかつての自我を取り戻し制御不可能になった。精霊協会に所属していた頃に比較すれば、ここメルンテーゼはひどく劣悪な戦いの土地だ。私にしてみても手ひどい損失だった。無論彼らには手は講じるつもりだが。
今、彼らを纏めるのはシエミだ。旅先で出会った女性に引率され、私の部下たちは場違いな海洋の化物を討伐に向かった。
私はといえばこの森林地帯で行く当てもない不安な探索ではなく、一揆参加者の護衛として赴いている。すべてはデリケートな彼らの修復のため、メルンテーゼから離れる策に他ならない。この森さえ抜ければどうこうなるものでもないが、手段を探る間の視線は遮ることが出来る。

在庫の紙は充分に有る。私は本部に居る通称化物、と連絡を取るべくして護衛対象であり引率のセルシアと合流するよりも前に森林へ寄る。
彼らの狙いが私の失脚であることは既に明らかだ。これほどに我々が弱っていても手出しをしないということは、はじめ私とモックを狙った刺客はブラフであることは疑いようもない。
怪しげな人物のリストアップは済んでいる。あとは化物にこの連絡を括り付けた鳩を放るだけでよい。世界間通信。今や文化の進んだ分割世界どうしでは使われなくなった、かつて異世界同士の連携をせしめる有効手段だった方法。

これで事態が悪化するのならば私の観察が甘かったと言える。本部の人間が中核をなした刺客は、あのホムンクルスに自我を与えた私を消しに来るのだろう。文字通りここで私の命は終わることとなる。

しきりに背後を振り返りつつ進む。