「よーぅ、また会ったな
何が癖になったのか聞きたいところだが……
正直、俺様の声以外の感想は求めちゃいねーんだよな」
「おや。
意外ときれいに治ってるじゃないか。
イバラシティの異能ってのは大したもんだな。
それじゃ、もう一度だ」
最悪の再会だった。
「げ、またかよ。……いくぞ、リベンジ!
フタバ、できるだけ避けてくれ!! リリィ、サポート頼んだ!!」
ツナグの指示が下る。
陣形はワントップ。ツナグもリリィも俺を信じてカラスさえも後ろにさがってくれた。
俺は盾の騎士。
宗像貴人に教わったわけでもない。ただ仲間の為に盾になると誓った盾の騎士だ。
俺の役割ははっきりしている。
前に出て、この盾で攻撃を捌き、後ろに攻撃を通さない。
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フタバ 「『剣道三倍段《トリスメギストス》』!!」 |
ツナグも最初から『ペン先で描く戦略/Stationery Strategy』でペンシルガトリングで牽制してくれてる。久々にあいつの本気の攻撃を見た。今回は出し惜しみは無しだ。
リリィもアミティエに集中してるのか、カラスの攻撃も的確だ。
相手の力も前回と同じではなかった。
焦げ臭い野郎の炎が竜となって襲い掛かり、極彩色の占い師はその言葉で思考を裂き、色の無い野郎は支援に徹している。
明らかな不利だった。
戦場に竜が撒き散らした炎が渦巻き、魔術めいた炎がより盛んに燃え上がる。
カラスが相手取る炎の竜に一瞬の隙が見えた。
今しかない。それは前衛としての独断だった。
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フタバ 「おおおおおおおおお!!!!」 |
盾を構えたままの雄牛の突進。
確かな手ごたえがあった。だが、まだ一手足りない。
そんな時、背後から竜と同じ形をした虚ろな鏡像が現れ、それを完全に消し去っていく。
ツナグの『天体衝突《ミーティアインパクト》』だった。
やはり、戦況の判断は的確だ。あいつはチャンスを逃がさない。
これでやっと五分。戦況は長期戦の様相を呈し始める。
ふと戦場に黒き風が吹き抜ける。
その時はただの異能が重なり合った領域効果だと考えていた。
そして、それは、現れた……。
黒き甲冑、黒き剣。宗像貴人、いや、それは黒騎士だった。
それは、俺の傍に並び立った。
長剣による雄牛の構え。その切っ先はアンジニティに向いていた。
ただ、その場では、これは敵じゃないと判断するしかなかった。
その驚きが一瞬の隙になったのかも知れない。
焦げ臭い野郎がわざとらしく両手を上げて戦場を退く。そのための牽制なのか、猛烈な炎が甲冑を焼く。それが決め手だった。
もう立っていられなくなった。
極彩色の占い師も退き、相手は支援に徹していた色の無い野郎だけ。
不安はあった。もし黒騎士が剣をみんなに向けたら。もし相手が攻勢に転じたら。
不思議と自分の死の恐怖は無かった。いや、恐怖が無いというのは嘘だ。
ここからは一人の戦いだ。意識は手放しても、フローラと生きる意志は絶対に手放せない。
自分がその戦いに負けてしまわないか。それが怖かった。
ああ、まただ。
また、死ぬほど熱いのに、寒気と痺れが訪れる。
闇とも違う、虚ろな無が見えてくる。
死がそこにある。
虚空の向こうから何かが聞こえる気がする。
甲冑から響く聞きなれた金属音だ。
戦いはまだ終わっていない。
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フタバ 「トリス、メギストスッ……」 |
喉が焼けているのか、思うように声が出なかった。
ただ、なんとしても戦闘態勢へ持って行く。
立ち上がる体力も無ければ、盾を作ることもできなかった。
ぼやけているが視界が広い。ヘルムもうまくできていないらしい。
ツナグとリリィと黒い人影。あの敵はいなくなったらしい。
だが、黒騎士がまだいる。
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フタバ 「て、めぇ……」 |
膝立ちのまま、剣を鋤に構える。
正直これ以上動けそうにない。
それでも、立ち向かう相手がいるなら、姿勢を示さなければならなかった。
それが唯一帯びた使命だから。
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黒騎士 「……」 |
一度だけこっちを見た気がする。それだけで、黒騎士は去っていった。
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フタバ 「……っふぅー」 |
息が漏れる。剣を降ろす。両手の拳を地に着く。
だが、鎧だけは保つ。
二人が近づく。ツナグが俺の手当を、リリィにはカラスの手当を促す。
一通りの手当てを終えて、焚き火を囲んで一息ついていた。
あの黒騎士は俺たちにとって共有の知り合いだ。だから、言っておくべきだと思った。
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フタバ 「黒い騎士。あいつが、タカ兄ぃの、宗像先生の本当の姿だ」 |
宗像貴人がアンジニティであることは既に伝えていた。
だからなのか、天河ザクロの時ほどの驚きは返って来なかった。
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フタバ 「この前CrossRoseで見た時はミイラみたいなのが乗ってる車いすを押してた。 あれが本体なのかもな」 |
助けてくれたということは味方なのか。そんな問いがその場に上がる。
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フタバ 「わっかんねぇ。アレが敵なのか、味方なのか」 |
味方であって欲しい。そんな想いは確かにあった。車いすのミイラとは別に行動していたが故にその希望が自分の中で大きくなっているのがわかる。
だからこそ、そんな期待が裏切られるであろう恐怖も大きかった。
宗像貴人という人物は蛇乃目双刃にとっては人生の起点だと言ってもいい。
宗像貴人という人物が存在しなかったとしても、あの黒い騎士が騎士として敬意を抱けるものであれば、そんな期待がどうしても心の中に浮かび上がる。それがたまらなく怖かった。
ふとCross†Roseを見る。新着があった。
黒騎士だった。その黒い甲冑は何も言わず、こちらを見ていた。
たったそれだけのVR映像。
もう一つ見覚えのない表示がある。
影響力が 69 増加!
アンジニティとの決闘に勝利した結果らしい。
「こいつに勝つと影響力とやらが上がるそうで」
シロナミという男の言葉を思い出す。
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フタバ 「……」 |
ハザマに住む生き物との戦いではなく、
アンジニティとの直接決闘で勝つと影響力が大きな影響力が手に入る。
つまり、決闘に勝てば勝つほどに陣営の勝利に貢献できる。
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フタバ 「最初に生かされた理由……」 |
簡単に刈り取れるカモは泳がせておいて、程よく蹴散らして勝利すればいい。
つまり、今回この決闘に勝利した俺たちは。
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フタバ 「生かす理由が、無い」 |
今度会ったら。
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フタバ 「次は無ぇ、ってことかよ……」 |
怖れを思い出す。
頭の悪い俺が今気づいた。ツナグはとっくに気づいていたはずだ。
あいつはその様子を見せない。
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フタバ 「俺たちは、生き残る。そして、このハザマの戦いに勝つ。」 |
Cross†Roseの仮想空間の中で、フローラに勝利を誓った。