-カスミ区　カスミ水族館‐



平日の昼下がり、もともとあまり集客もない静かな水族館は、平時に増して人気が無い。
新学期が始まって間もない頃、私服ではあるが、年の頃から学生であろう少年が一人、
水槽が並ぶメインロードを歩いている。

少年はカスミ湖の魚が展示されている水槽の群れ、その内の一つの前に立ち止まった。
湖の魚は海の魚に比べると随分地味だ。国内のものは特に。それが妙に安心する。
館内に負けず劣らず静かな水槽をじっと眺めていると、
さざ波が立つようにざわめいていた心が少しずつ落ち着いていく。
カジカがひょこりと顔を出して、自然と頬が緩んだ。

嫌な事があったとき、何となく心がざわつく時、昔はよくここへ来た。
静かで、自分以外の人間は誰もいない。水の青が辺りを満たした異空間。
展示のそばにあるイスに腰かけて目を閉じる。



水面に揺れる光の網と共に、いつも一緒にいる彼の姿が浮かんだ。
二年の半ばに仲良くなって、今では本当に毎日、と言って過言ではないくらい一緒にいる相手。
高校生活が終わる頃には、彼は実家に帰ってしまう。
たった一年とちょっとしかなかった。

家業を継ぐために帰る彼を、自分のわがままで引き留めるなんてこと、
出来るはずがなくて。その時がきたら笑ってお別れを言おうと心に決めていた。
イメージトレーニングはばっちり。頭の中では、いつもの笑顔で自然に話をして、
自然にお別れを言って。そんな映像を何度も想像する。

…目を開けば、相変わらず人影はなくて。左右を確認すると、薄く口を開いた。
さっきシミュレーションしたばかりの言葉。お別れの言葉。
喉がつかえたように息が詰まって、想像したようにはどうしても出てこなくて。



「　　　　　　。」

変わりに出てきた言葉は、誰もいない空間に溶けて消えていった。

▲

	言葉はなく、静かに頷いた後に回線は閉じられた。 　　　小さく「またの」と呟いた声が、ハザマに吹く風に浚われていく。

▲	バツ 「とっしーは皆のコト、よく見てるな」

	バツ 「……や、なんか感心しちまった。 おれ、結構自分のコトばっかでさ。 とっしーみたいに周りのヤツらを観察するなんて出来なかった」

	バツ 「水臭いコト言うなって！　任せなよ、ムードメーカーの出番だもんな。 　そういうのはおれが適任だって分かってるから言ったんだろ？ 　そこんとこ、ちっとは分かってるつもりだぜ？　とっしー」

	バツ 「そうそう！　肉orねばねば！　何呼び寄せてんだよ、って感じ。 ――ああ、そうそう！　お団子の話もしてたなあ、そういや。 あんな話されたら、おれたちまで食べたくなるって。 案外、ハザマグルメってめっちゃ豊富……？ エナジー棒徹夜行軍とかどんなデスマーチだよ！！ 結構こまめにキャンプに帰れそうだし、こうなりゃ侵略者から街を護りつつ 可能な限りご当地グルメを試しまくるのも悪くなさそうなんだよな……ちょっと緊張感に欠けるかな？」

▲	フタバ 「あ、幽霊じゃねーぞ！俺は生きてる。 死んだってもどこまで逝ったかわかんねぇけど、ツナグになんとか回復してもらった。」

	フタバ 「え、俺、死んでないよな？ （仮想空間の中で無意味に自分の姿を確認する）」

	フタバ 「イージスに太鼓判押されたら安心だぜ。 なんつっても、最強の盾だからな！」

	フタバ 「その気になったらゴルゴンの眼で敵を殺せる……」

	フタバ 「あ、さっき雀部にも送ったけど、お前ら一緒だよな？ なんか雀部の様子が変だったからよぉ、お前が守ってやってくれよな」

▲	裾を引かれるまま、スイとそちらを振り返る。 まるで貴方がそうすることを予想していたかのように、 その動きはどこまでも自然で平坦だ。

	「我孫子。」 大きく一歩踏み出して距離を詰める。 コートのボタンが互いの体ですり潰される乾いた音。 それを一層大きくさせながら、貴方の頬を両手で優しく包み込んで。 「お前だけには教えとく。 　ちゃんと言うからちゃんと聞いて。」

	――――　ぐ、と頬に添えられた手に力がこもる。 自分以外を視界に入れることを許さない、傲慢な力強さで顔を固定して。 視線をそらす自由さえも奪いとるように、その明るい瞳をじっと覗き込んで。

	雀部 「どっちが勝ってもどっちが負けても、 　そんときおれが居たい場所はお前の隣。 　イバラシティでもアンジニティでも、"何処でもない"。」

	雀部 「せやからさ、我孫子。 　　　　・・・・・ 　　　　負けたときは、」

	「　　――――　　ず っ と 一 緒 に い よ う 。　」

	毎日のように顔を合わせ、言葉を交わしてきた貴方になら分かるかもしれない。 語尾の発音が、普段彼が使うような訛りのイントネーションとは微妙に違っていること。 話しぶりがらしくないほど潔いこと。 油断すればすぐ煙に巻かれてしまいそうな曖昧さや逃げ道が その声音にも表情にも、どこにも見当たらないこと。 　　　　　　　　貴方を見つめる瞳が、今までのどれよりも、まっすぐで重苦しいこと。

以下の相手に送信しました

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

ハザマに生きるもの ホスト ジャンボゼミ

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

Traitor Duo ENo.654 夏鈴 ENo.656 『 』

2人の声が響いています。

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

ハザマに生きるもの ホスト チンピラ

411

545

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

Traitor Duo ENo.654 夏鈴 ENo.656 『 』

123

162

ヒノデ区 B-16

チェックポイント《白い岬》

秘密結社フリーパーソン ENo.606 雀部 ENo.607 我孫子

立ちはだかるもの 守護者《NARWHAL》 守護者《NARWHAL》

655

363