『飴宮彩季』という少女は元々存在しない。
ある存在が『ワールドスワップ』の力により、少女を形どって顕現した者。
ただし、その存在は一つではなく、二つの存在によって『飴宮彩季』が形成されている。
その片方は異形なる魔女、飢えた存在。
かつて『人食いの魔女』とも呼ばれたそれは、決して人間に対して悪意を持っている訳ではない。
まだ異形でなかった頃、できる限り人を避けて暮らしていた彼女は博愛と純粋をその身に宿していた。
故、注がれた悪意にどうしようもなく、後に残ったのは怪物と傷物の心。
――彼女の名は◆◆◆◆、ある兄と同じ名を持つ者――
異形なる存在が眺めていたのはチャットの画面。
そのメッセージ一つ一つを怪物のような髪が優しくなぞる様に辿っていく。
それに実体があるかどうかはさておいて、まるで実際に触れたような感覚が感じられる。
 |
魔女 「…」 |
ついさっき受信したであろうメッセージ、数刻前のメッセージ、さらに数刻前のメッセージ…
それらは自身を心配するメッセージ、自分を友達であると伝えてくれるメッセージ。
…こんなにも自分を思ってくれること、それはとても嬉しく思っている。
前まではこんなこと、一度もなかったから。
ただ同じように、酷くそれに心苦しさを感じている。
それは心のどこかで裏切られてしまうのではないかという思いを持つ自分への嫌悪感。
…そして、この身にぼっかりと空いた穴に浮かぶ飴玉に起因する。
 |
魔女 「…」 |
感覚で理解しているつもりだ。
少しずつそれはだんだんと小さくなっていっていると。
ただ、これほどまでに魔術を行使してなお、そのスピードはそれほど速くはない。
それを不思議に思いながらも、残された時間はどれくらいだろうと考える。
――この飴玉がなくなった時、飢餓感が限界へ達し暴走をする。
自分が一番理解している事だ。
…分からない、この戦争がいつ終わるのかも。
この戦いの途中で理性など失いたくなんてない、きっと酷いことになる。
…帰らなきゃ、みんな食べてしまう前に
もう片方の存在は本来ならば存在しなかった者。
魔女の強い願いとある悪魔の術式により顕現した存在。
ある少女のような風貌を形どったそれは孤独から逃げるために足掻く。
それはある地では悪魔と呼ばれる存在、実態は願いの具現化。
――彼女の名は◆◆◆◆◆、ある妹と同じ名を持つ者――
ため息をつく、ここは「彼女の中」だ。
彼女は今送られてきたメッセージを眺めている。
愛おしそうに、あるいは苦しそうに。
 |
悪魔 「」 |
理解しているはずだ、自分は忌避されてなどいないと。
それでもきっと恐怖しているのだろう、伝わる、だって同じだから。
…でも自分だって怖い、また二人ぼっちになってしまうのも。
暴走して見境のない暴食の果てを彼女の中でただ見るだけなのも。
 |
悪魔 「」 |
思えばなんて無茶なことだろうとは自分でも理解している。
本当にこの戦争を永遠に続けられる可能性など本当はどこにもないとも分かっている。
ただ、縋っているのだ。
大団円のハッピーエンドはきっとあると。
だからまずは戦争の黒幕を見つけなければ。
その後は彼女の暴走が起こらないような方法を探さなければ。
…たぶん、"向こう"で食べれば食べるほど、飴玉の速度は落ちているのではないか。
まだ確定的ではないが、きっとヒントになりうるかもしれない。
希望だけを考えなくてはいけない。
まずは彼女から離れないと、自分一人でこの地を歩けるようにならないと。
…タイムリミットは飴玉の消失、あるいは戦争の終結だ
◆◆◆◆と◆◆◆◆◆
彼女らは苦悩しながらハザマの地を歩く。
今もはっきりと感じている。
タイムリミットは刻一刻と近づいていると。
【『飢餓の魔女』の飴玉消失まであと■■時間】
【『飴宮 彩季』が空腹になるまでの時間が少し短縮されました】

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
 |
白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
 |
白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
 |
カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
 |
カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
 |
白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
 |
カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
 |
カグハ 「ちぃーっす。」 |
 |
白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
 |
カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
 |
カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
 |
白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
 |
白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
 |
カグハ 「違うよー。」 |
 |
カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
 |
白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
 |
カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
 |
カグハ 「・・・・・」 |
 |
白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
 |
カグハ 「・・・・・その・・・」 |
 |
カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
 |
カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
 |
カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
 |
カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
 |
白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
 |
白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――