
艶々と輝くセダンタイプの黒タクシー。
最近は目にすることも少なくなってきた歴史の遺物のようなもの。
白いレースつきのカバーに覆われた後部座席に揺られて、私は目を覚ます。
一か月近くも前の出来事を、つい今しがたの出来事として思い出す。
本来はつながるはずのない二つの記憶が連続している。
たとえて言えば、水面を跳ねる飛び石のよう。
時間軸の不整合がもたらす言い知れぬ気持の悪さを受け入れながら、現在の状況を整理する。
一言で言えば、私は力尽きた。
こうしてタクシーに揺られているのは、私自身が呼んだからだ。
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透 「………………」 |
これは、箱庭の中の侵略戦争。
そこにはたしかなルールがあって、何人たりとも逸脱することは許されない。
ゲームじみている、とも思う。
イバラシティのデッドコピーを舞台に繰り広げられるウォーゲーム。
私たちは盤上の駒にすぎない。
ルール通りに戦って、ルール通りに敵陣営を追い落とさないといけない。
ルールブックを書き換える手立てはあるのかなこれ。
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透 「しらくちゃんは……」 |
ビリビリちゃんが言っていた。
「アンジニティの身体と、イバラシティの精神に分離している」と。
………つまりあの子は、私の恋人はこの世界を侵略しにきたということになる。
今までに交わした会話を振り返ってみても矛盾はない。
他の人にも話を聞いて、もっと情報を集めないといけない。
これはグッドニュースとバッドニュースの、どちらかといえばバッドな方。
そういう可能性もあるかな、と考えてはいたけれど―――。
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透 「…………」 |
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透 「うん、それで?」 |
白波白楽は今も私のコイビトのまま。誰よりも優しくあろうとする君は今もここにいる。
何かが変わったわけじゃない。これはとびっきりのグッドニュース!
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透 「詳しいことは会って話さなきゃだね」 |
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透 「君の言い分を聞きにいきます。それまで結論は急がない」 |
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透 「それでいいでしょ?」 |
窓の向こうを流れていく赤錆色の空を遠く眺めて、その彼方に君の姿を思い描く。
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透 「しらくちゃん」 |
元気になったら捜索再開。それまでちょっと、一休みということで。

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――