
イバラシティではつつがなくバレンタインやテスト期間を迎えて、
俺は2ー2のクラスの連中や2ー4の連中と馬鹿やって騒いでる。
そういや藝術展でボランティアもやったっけ?
相変わらず侵略戦争なんてまだ先で、いつ来るかなんて構えてな。
もうとっくに始まってンのにお気楽なモンだ。
ハザマで連絡を取った何人かはアンジニティだった。
ほとんどが好戦的で、仲良くしてた奴らの顔で襲ってくると思うと…
また、誰か倒れて怪我して……
治療が効かないくらい重症になったらと思うと…、手も脚も震えてくる。
綱吉部なんて、殆どがアンジニティだ。
マジで、ふざけンなよ……。
唯一、師匠やヒーローの先輩達がイバラシティの住人だったのは救いだ。
安心して頼れる相手がいるのは心強い。
十神からは連絡が途絶えたし……ちゃんと生きてる、よな?
正直泣きたくなるけどここで弱音を吐いたら本当にヒーロー失格だ。
戦う限り俺はヒーローでいなきゃならねェンだ。
「ただの加唐揚羽」に戻ったら、俺は戦えなくなる。
だから、今は怖がらずに連絡を取り続けようと思う。
イーサンのようにイバラシティの味方につきたいと思ってくれるアンジニティがいるなら、
呼びかけるのも一つの手だ。
他の奴の安否も知りたいし、こう言う時に孤立するのが一番ヤベェって
じーちゃんもばーちゃんも言ってた。
もしかしたらイバラシティの防衛を手伝ってくれる奴がいるかも知れない。
物資のやり取りとか大事だしな。 今は俺に出来ることを考えて、それをしよう。
「…今の俺は、外道ヒーロー『泥蘇光悪渡・悪漢(ディスコード・バッドガイ)』。
余計なことは考えるな。」
クロスローズの空間にひるこちゃんによく似た少女が立っていた。
ひるこちゃんは俺がまだ人間でホームレスだった時、
孤独感を埋める為、野良猫に餌をやるようにして世話をした娘だ。
(彼女の瞳は空っぽで食べること以外に無反応で、俺にとっては腹立たしく頻繁にその事を罵倒しては殴った)
けどクロスローズで見かけた少女は後ろ姿こそ似ていたが、
振り向いた顔は凛として、芯があるしっかりとした声と光る意思を持つ瞳を持っていた。
何より俺のことを覚えていない。
彼女がひるこちゃんではないにしろ、
道化戯秤音ことジョーカー・イン・スペードに呼ばれた所を見ると
「普通の女の子」ではないのだろう。
改造か、洗脳か。はたまた本当によく似た別人なのか。
バイコーンカルテット、そして空っぽの少女。
彼らは…特にジョーカーはだいたい行動を共にしている。
クロスローズにいた少女は本人じゃないと言っていたが……。
「どう見ても、瓜二つだ…」
直感だが騎士淵さんがイバラシティについたなら、
その友人のジョーカーも、イバラシティ側なんだろう。
もちろんあの少女も…。
戦えるわけがないと怖気付いたその時、聞き覚えのない声が聞こえた。
周りにはハザマの化け物しかいない筈だ。
いいや耳からじゃない。この体から。全身から声を感じ取った。
俺を、歓迎する声が聞こえた。
「これがエヴォルアーク……」
『これが、XYZ(サイズ)の始祖、ミカボシ様』
ぐるり。
人間の皮を反転させ怪人体に転身する。
その姿がミカボシ様の前に立つ時の正装であるように。
その老人の声は初めて聞くはずなのにずっと以前から知っているような懐かしい声だ。
長い間空洞だった部分が満たされていく心地がする。
俺の、居場所。
クロスローズの通知が鳴り響いた。
娘のラピアから返答のメッセージだ。
ラピアはグラフトバベル…武岩さんの部隊と同行しているらしい。
武岩さんの部隊なら安全は保障されているだろう。
だが、可哀想に。不安でいっぱいだと告げる顔は
人間だった頃と変わらない「ただのか弱い女の子」だ。
『ハ、ハ、ハ…!!怪人が悪を成すのに怖気付いてどうする?
俺は怪人ガランドーム。
お父さんは いつでも お前の味方だ。』