結論からいって。
俺は呑気で、甘くみていて、
ラフィの言うとおりの『心配なお人好し』で、
俺自身がが言った通り、どうにもビビりそこねていたらしい。
いや実際、甘く見ている状態で上手く回るヤツだっているんだろうけど。
少なくとも俺の場合はそうじゃなかった。
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ハザマ時刻ってヤツが、正確に何時頃だったかはわかんねえな。
多分六時くらいだったと思う。
クソでかいセミとかの森のお客様とやりあったあと、
俺はでかい黒猫をラフィにあずけた。
チワワだの山猫だのを捕まえろっていわれてたけど捕まえてやれなかったし、
猫がやっと懐いてくれそうでホッとしてた。ラフィは猫派だしな。
で、ちょっと一人になった時だった。
背後に誰かいるな、と思って振り返った。
九重先輩……風だけど顔がない。
九重先輩?
ナリコーの元先輩。
よくわからんが、アンジニティの人なようだ。
パッと見にもアンジニティな先輩のことを、
俺は九重先輩として扱っていいのか
それとも別人として扱っていいのか、
その人が何も言わんのでまだ迷ってはいたんだが。
九重先輩?が殴りかかってこようとした時、
拳そのものは、一回ケンカも済ませてるせいもあって怖いとは正直思わなかった。
俺のもてなしがまだ足りなかったようだとは思ったし、
だからまた無理やりにでも寛がせてやるぜってなつもりで応じようと思った。
俺も番長なんで喧嘩なら買うつもりでいたしよ。
でも、九重先輩は結局、振り上げた腕をぴたっと止めた。
だから俺はその時に、じゃあ喋ってみようと思って
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温泉番長 「九重先輩」 |
ってな感じで声をかけようとした。
けど、声にもならんかった。
実際のところは。
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温泉番長 「……――、……」 |
大きな音がして、俺はぶっ倒れていた。
銃声ってヤツだが、こんなに間近で聞いたのは初めてだった。
なんせイバラシティでも治安が悪いとかいわれてるオオキタとはいえ、
銃ぶっぱなすなんてことは滅多におきねえ。港のほうじゃどうかしらんが。
まずい、くらいは思ったんだったっけ……?
ともかく俺はビビりそこねていた。
アンジニティの人がどんなお客様でも、
ちょっとは寛いでもらえるんじゃないか?と考え続けていたし。
九重先輩が俺を憎む理由もわからんかった。
俺が殺される理由はまあ、陣営が違えばそういうこともあるんだろう。
単に。俺は相手のことをよく知らなくて。
ビビりそこねていたから、こんな風に油断して。
アンジニティって侵略者にまんまと銃口むけられて、逃げることもできなかった。
間抜けにも、「えっ!?」と思ってるうちの出来事だった。
まあ、他人のことはわからんなんていう、ただのフツーのことだわな。
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誰にどこを撃たれたのかもぶっちゃけよくわからない。
ユウシャ風にいうなら目の前が暗くなった!てやつだ。
九々之助を怖がらせちゃう気がするな?
強そうだから、つってたよりにして貰ってたんだけどなあ……
ラフィはどうだろう。俺のこと心配してたはずだ。
やっぱり、なんて思わせたくなかったんだけど……
ユウシャ、あとは頼んだぜ。
あーあ。
「世界を救おう」なんて言われた時に、
俺は「こいつ危ない目に合うんじゃ」とか
「こいつ危ないことするんじゃ」とか思ったわけだよ。
俺も不良なところがねえとはいわんから、
「子供だけで勇気いっぱい立ち向かったら、どんな危ねーことするかわからねえ」
……なんていう大人うざったいのわかってたんだけど。でも。
ホントに危ないかと思ってさ。
アンジニティってのが、どんなヤツだか俺知らねえから。
フーが強いって聞いてはいたけど。どんなだかわからねえから。
小学生が痛い目みるのも、本気で人傷つけさせるのもマズい、みたいなことは思ってて。
いざって時は身をまもる手伝いも、やりすぎないよう見ててやることも
しておきたいなあと思ってて……
大人がついていたほうがいいだろうから、せめて代わりにと思ってたのに、情けない。
大人はたよりにならないなんて、小学生に思わせることじゃねえんだけど……。
まあ俺も高校生なんだけどよー。
ハインさんは物騒慣れしてるらしいから、無事にやっててくれると思うけど……
ちょっと抜けてるところがあるから、どうにも心配だ。
ホントなら俺がハインさんにもついていてやりてぇところだが……
多部とサンノジ、だいじょうぶかあいつら。
多部は帰りたがってたし。ホントに二人とも早いとこ帰ったほうがいい。
まー、俺が死んだ後は、サンノジが多部のこと面倒みてくれるか。
多部のことメッチャ好きだしな。
サンノジに先輩と会ったとはいってあるし……
そんなわけで俺は死んだ。
こっちに来た時すぐに思ったっけ。
ハザマで死んだ俺は一体どうなるんだ?
まあ今更なるようにしかならねぇか。
そういや遊園地の豪華客船で死ぬ役やったわな。
ふり返ってみりゃあフラグとかいうやつ乱立してたんじゃねえの?
サンノジ曰くアニキキャラが退場なんざ、物語じゃよくある話らしい。
実際わが身におこるたぁねえ。
まあ、人間死ぬときゃ死ぬわ。
そうだ。サンノジがアニキ系が死ぬ時なら、なんて用意してくれたセリフがあった。
えーと。よし。
お前らの心の中で、俺はいつだって応援してるぜ!
一足先に身軽になって、あの世の温泉で
おもてなしの準備でもやっておくとしますかね。
多部
俺の幼馴染。ぼさっとしてるから心配だ。
あんまり変なもん食うなよ。
サンノジ
俺の親友。お前なら大丈夫だ。
何がってよくわかんねえけど色々だよ。
ハインさん
もうとにかく元気でいてくれればそれでいい。
俺が居なくてもちゃんとやっていってくれるかな……。
九々之助
うちの旅館によく来る中学生。
ハザマだと変わらんけど、最近クマ薄くなったんじゃない?いつも来てくれてありがとう。無事でいてくれ。
ユウシャ
うちの旅館で連泊してる勇者。
世界を救ってくれよな、勇者だろ?
ラフィ
小学生で俺の恩人。
頼れる大人やってあげられなくて、悪かった。ホントにゴメン。
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Chatに九重先輩(224)からの銃殺メッセがあり
多部タハル(843)・山王寺白馬(1641)の日記には温泉番長の死がメインに取り扱われています。