山王寺白馬
サンノジくんに一緒にいこって、誘ってもらった。
サンノジくんは、ウロスの友達でクラスメイトで、
ウロスと同じくらい大きくて、大型の草食動物…って感じの男子。
地味な感じなのに、大きいからよく目立つ。
気が優しくて、のんびりしていて。
頼りになるかはさておき。
安心する人というのは、サンノジくんみたいな人のことかもしれないって思う。
だから一緒に行こって言われて嬉しかった。
…………うれしかった…? ほっとした。
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(道すがら、サンノジとの会話の合間に
スマートフォンをいじって今回の食レポを書いている。)
【犬(ウルフ)】
歯ごたえ:☆☆☆☆☆
味 :★★★☆☆
見た目 :★★★★★
犬かわいい。
カバンくんをうまく止めることが出来たので舐めるだけで済んだ。
味は犬くさかったけど犬くさいと犬がかわいいから★3つ。
見た目は好みのやつ。
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(チラ…) |
サンノジくんて、私のこと好きなんだろうか。
気のせい…?
こういう勘は、割と鋭いほうだと思う。
なんとな~くだけど、優しくしてくれそうな人がわかると言うか。
割と人の好意を食い物にしてる自覚はあるんで。
まあ、実際サンノジくんがどう思ってるかはわかんないしどっちでもいいけど。
なんかこういう扱いはちょっとだけ珍しい気がするし
結構、悪い気はしない。
ここでは久しぶりに、そんなくだらない 力の抜けたことを考えてみて
ちょっとおかしな、笑っちゃうような気分になったりした。
なんだ、案外人と居ると ここも遠足みたいな気分になれるかも。
そんな呑気なことを考えていた矢先だった。
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私が"それ"に気づいたのは、サンノジくんが私に突然謝ったときじゃなくて、
──……それよりもあと。
サンノジくんが駆け出して、"それ"に向かって名前を呼んだとき。
ばかでしょ。
我ながら薄情すぎて笑っちゃうんだけど。
私、岩か何かかと思って。
ほら、あいつ大きいし、私 目悪いし。
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多部ちゃん 「………うそ…」 |
箕田ウロス
本当にばかで。
岩なわけがない。あんなに派手な色して。
わかってしまえばどこからどう見たって、幼馴染が血の海の中に横たわってる。
だって、信じられるわけないじゃん。
あんな体力バカみたいな図体と性格してて、たくましくて図太くて
そういうのから一番遠いじゃん。
そんなの、気づくわけないでしょ。
こんなん全然、キャラわかってないじゃん。
(わかってます。兄貴キャラは存在がフラグです。)
信じられるわけない。
…なのに、サンノジくんの後ろをゆっくりと歩いてついていけば
そこにはやっぱりウロスが横たわっている。
真っ直ぐに見られない。
確認してしまったら、これが現実だって認めてしまいそうで。
つらい、いやだ、……こわい。
こわい。
竦む脚を折ることも出来ないまま、私は目をそらして硬直してた。
思い出すのはさっきまでの呑気な空気だとか、スタンプラリーだとか
初詣だとか、毎日のお風呂だとか、学校だとか、子供の頃とか…───
これじゃ、まるで走馬灯みたい。
…ああ、いやだな。
サンノジくんの取り乱した声が遠くなっていく。
そりゃあそうだ。だって聞きたくない。
こんなの「うそだ」って言ってくれなきゃ。
「なんでもない」って言ってくれなきゃ嫌だ。
せっかく怖くなくなってきてたのに。
こんなのって、 …こんなのって
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カバンくん 「 ──────────ガパ…」 |
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多部ちゃん 「…え、やだ……!」 |
おとなしくしていたはずのカバンが音を立てて口を開く。
ああ、そうだ
お腹が、空いているんだ 私
そういえばこっちではしばらくあんまり食べてなくて
こっち側だと、向こうよりももっとおなかがすくから!
…いつもはお腹が空いても我慢すればいいだけなのに
こっちではカバンが勝手に何かを食べようとする。
いやだ、いやだ、いやだ
今は嫌だ!!!
泣きながら、今にも暴れだそうとするカバンを抱えて、思った。
私はこんな時だって自分のことばっかりなんだ。
私どうして泣いてるの
ウロスが死んで悲しいから? もちろんそう。
でも、それよりも。
ウロスが死んだことが怖い。 居なくなっちゃうのが怖い。
誰かに殺されたって思うのが怖い。 現実だと思うのが怖い。
お腹が空いて…食べようとしてるのが怖い。
サンノジくんはウロスのために怒って、泣いていて、
ウロスだってきっと、こんなところでもどうせいつもの調子で
お人好ししたり温泉バカしたりしてたんだろうな。
そんな調子じゃろくなことになりやしないって
考えるまでもなくわかるだろうが。
ばかなウロス
死んでしまうとは情けない
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多部ちゃん 「 ……だから、早く帰りたいって…言ったのに…っ。」 |
つらくて、つらくてこわくて。
身近な誰かが居なくなるなんて、考えたくなくて。
自分も死ぬかもなんて、思いたくもなくて。
いやで、いやで、いやで、私は泣くことしか出来なかった。
何も変わってほしくなかった。
こんなことちっとも望んでなんてなかった。
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多部ちゃん 「 助けてよぉ…」 |