「偽りも真実すらも心を苦しめる何もかもを、なかったことにしたい。…そう願ったことはありませんか?」
「…しあわせな夢を見たいと思いませんか?」
糞化け物野郎の糞みてぇな言葉が頭にこびりついている。
「さあ、俺を殺してみろよ」
一緒に居やがった糞裏切り者野郎の表情が,あの言葉が,頭にこびりついている。
俺が知らなかった,気にもしなかっただけで,裏切りやがった糞共は大勢いるらしい。
心を苦しめる何もかもをなかったことにしたい?
幸せな夢を見たい?
ぶざけんな!!テメェだけで死ね!!!
そんな夢はヤクでも馬鹿みてぇにキメて死にながら勝手に見てやがれ糞野郎共!!
俺は絶対に負けられねぇ。
俺には,しあわせな夢なんか必要無ぇんだ。
ただアンジニティの糞共を全員ぶっ殺して,ダチと……大切なヤツと,過ごせりゃそれでいい。
俺は絶対に負けられねぇ。
裏切り者共は絶対に許せねぇ
環の為にも,絶対に……。
「──組が───────ン───────って。───────がいて、相手──人で─編成─────────らには──────ツイかもって話なんだけど……どう、思う?」
俺はこの時,正直,殆ど聞いていなかった。
リンカはあんな相手と戦った後でも,何も変わっていない。
それは,リンカらしいとも思うし…この女なら変わるはずがないとも思う。
俺なんかとは違って,考えて行動できる女だ。
「……………ん?あぁ,悪ぃ,あんまし聞いてなかった。」
「………だいじょーぶ?いけそお?」
誤魔化してやっても良かったのだが,俺はつい,聞きたくなってしまった。
怒りを感じないのか,ぶっ殺してやりたくならないのか,と。
「……さっきぶっ潰した糞野郎の事が気になっちまってな。
あの糞野郎,テメェの生まれた世界も守らねぇで……あっち側に付きやがったんだろ?
アンジニティの糞共も赦せねぇが……あらぁ,一体何だってんだ?」
我ながら,馬鹿なことをしたと思う。
リンカならどう考えるのか,想像がつかなかったわけではないだろうに。
けれど,この時の自分は,聞かざるを得なかったのだ。
それほどまでに,この時の自分は,心の底から裏切り者を嫌悪していた。
「………あのオジさんが組んでた「アレ」が戦い始める前に言ってたこととかから、ある程度想像は出来る、けど………」
リンカの表情が固く,何かに怯えているように変わる。
「………ホントに聞きたい?聞いたとして、説明したあたしにまで怒ったりしない?」
そこで気づいた。俺は,怒りをぶつける先を見失っていたのだと。
その余波を,アンジニティの糞共を殺させない,貴女に向かって投げつけようとしてしまっていたのだと。
「…悪ぃ,お前をビビらしてぇワケじゃねぇんだ。そんな顔しねぇでくれや。……怒らねぇよ。約束する。だから……聞きてぇな。」
今更説得力も無いとは思う。
けれどリンカは,少しだけ安心したような表情で語ってくれた。
「………あのオジさんと一緒にいた「アレ」、戦う前にあたしらにこー言ってきてたじゃん。
『しあわせな夢を見たいと思いませんか?』って。
…………あのオジさんさ、「自分の意思で」「あの話」に乗ったんじゃないかなって」
リンカの想像は,きっと正しいのだろう。
けれどそれこそ,勝手に死ねとしか言いようがない。
また,怒りが湧いてくる。
「アイツはアイツなりに考えて決めたんだろうからさ,そらぁ,アイツの勝手ってモンだ。
だけどよ,裏切り者の糞野郎だってコトは,変わらねぇだろ?それを見逃してやる理由なんかあるか?」
「…でも、わざわざ「殺してあげる」必要なんてないじゃん。“ウチら”に負けるくらいなら、“殺すまでもない”でしょ。
…何回でも、ウチらのポイントになってもらうだけ。その上で…壊したかった現実に、帰ってもらうだけだよ」
「…そらぁよ,団体戦のルールだとかってヤツを考えたハナシか?それとも,テメェの手ぇ汚したくねぇからどーにか理由付けてるってだけか?」
「…まあ、ワガママ言ってる自覚はあるよ。でも、理由としては「両方」のつもり。
特に、あのオジさんみたいなヒトにとっては、ウチみたいなののほーが残酷なトコもあると思うしね。」
正論だと,思う。リンカが言っていることが正しいのだと。
そしてリンカは,英雄になりたいのかと問う。
その気が無いのなら,拳のおさめ所は考えた方が良い,と。
「英雄」の道連れなら,他をあたってほしい,と。
「……今更考え方変える気なんざ無ぇ。」
ただ,リンカを巻き込むつもりも無い。
今でもすでに十分巻き込んでしまっていると思うが,リンカは,自分などとは違う。
妙に自分を蔑むようなところもあるが…,
「…安心しろ,お前の前じゃやらねぇよ。
さっきも言ったけど,こらぁ俺の自分勝手だからさ,お前を巻き込んじまぁつもりは無ぇ。」
俺はもう,戻れないのだ。
4人を殺した。少なくとも向こうでは,一生,その罪を背負って生きなければならない。
リンカはそれに,気付いてくれているらしい。
勇み足で命のやり取りなんかするもんじゃない,と,苦笑された。
「俺ぁ団体戦終わっても殺人犯…なんかな?」
だから,当たり前のことを,口走ってしまった。
俺がやったことだ。もう,どうすることもできないと,分かっている。
だが,リンカの答えは,意外だった。
「“侵略”で書き換えられた現実がどう戻るかで話変わっちゃうから、何とも言えないよねー…“期待しつつ前提にしない”のがいーのかな。」
……期待してもいいのだろうか。
どんな理由であれ,犯した罪が消えることを。
確かに考えてもみれば,自分の殺した4人が“初めから居ない”のなら,殺しようがない。
期待しつつ前提にしない。賢いリンカらしい言い方だ。
無理に決まっていると突き放すでもなく,大丈夫だと無責任に述べるでもない。
けれどその言葉は,俺に“未来”の“希望”をよみがえらせるには,十分なもので……
「……どう戻るか,ねぇ。
ま,何にせよ,ともかく勝たねぇと意味ねぇもんな。そう言う意味じゃ,頼りにしてんぜ?」
……この瞬間のそれは,間違いなく,本音だった。