『Stay tuned for the FOXNET RADIO coming up next!!』
『──続いてのおたよりはラジオネーム【いづな】さん』
『【くずこさん、こんばんは。】こんばんは、なのじゃー!』
『【いつも、ラジオを楽しみにしております。くずこさんの声を聞いていると、私にも気兼ねなくなにかを相談できる相手がいるものかと、どことなく面映ゆい気持ちになることです。】』
『【折角リスナーであることです。あなたに訊いて頂きたかったことのひとつやふたつは、おたよりにしたためようかと思い立ちます。
お時間いただくことを、お許しください。
──また、多くの出逢いがありました。
花の名をいただく女子がおりました。らじおが繋いだ縁なれど。
見護ってやらねばと感じた、なにとなく放っておけない娘。
青い水の光に照らされて。暖かな文明の光に照らされて。
この先の世を生きていくべき子供であることです。
我ら、旧きものとして。
かの娘の影となり陽となりて、照らすものでありたい。
我らを滅するものらがおりました。
担う子らは、いざ触れてみれば、あまりに穏やかなこと。
縁も、道理もありましょう。それでも。
嬉しかった。今世の狩人たちが、我らを見れば喜び勇んで牙を剥くような。
そんな者たちではないと、知ることができて。
いつか、彼の子らが怪異を殺す術すら忘れていられるような。
そんな世を、残したい。】』
『【ヒトは、出逢いによって変わるもの。
あの方もまた、幾多の出逢いと共に変わってゆきましょう。喜ばしきことです。
あの方があの街で暮らし、笑う度に。
その横顔から、保名さまや晴明さまの影が薄れていくのが分かります。
やっと。やっと、忘れることができるのですね?】』
『【春風に吹かれて歩き、ヒトの温もりに触れて、次の歩みへの糧とする。
芽吹きの春眠の中で、あの方は一歩ずつ。歩みを進めております。
我等の側から、彼らの側へと。
葛乃葉さま。あなたは】』
『【あなたは狐であり、妖であり、カミと成り、異能となった。
消えずとも、よいのです。あなただけが、ヒトへの恨みを越えてそちらへ歩み寄ることができたのだから】』
『──っ!!』
『【あなたは、ヒトに成ってよいのですよ】』
『──駄目、じゃよ。
まだ、忘れることは許されぬ。
やさしきひとの、においがするたびにな。
鼻の奥に漂ってくる。保名さまと、晴明の血のにおいが。汗と、下卑た嗤いと、炎と……』
『もう、恨みはない。それでも、疵は残る。
わしはヒトに寄り添いたい。じゃが、わしはヒトには成れぬ。
ゆえ、役目を終えたら……そなたらと共にそっと忘れられ、消えたいのじゃ。』
『もう、休ませておくれ』
■ラジオノイズ。
『Stay tuned for the FOXNET RADIO coming up next!!』
『──続いてのおたよりはラジオネーム【おろち】さん』
『【憎い。
憎くて憎くて堪らぬ。夜の闇を畏れることを忘れたヒトの、憎らしさよ。
勝てぬ。技術、文明、好奇心。
我等はなべて、ヒトには勝てぬ。
だが、此処では違う。
かつて味あわされた屈辱を。甘んじて受けるほかなかった凌辱を。
鳥共に喰い散らかされた我等の遺骸を、嘲笑うヒト共を。
思うさま、喰い散らかす時が来た。】』
『【狐よ。宇迦だのなんだのと、知ったことではないが。
そなた、ヒトの味方をしているようだな。
狐よ、そなたが後生大切にしているヒトだ。その者らに我が毒を注ぎこみ、内側から骨まで溶かし、甘露の如き悲鳴ごと呑みこんでやろう。
逃げはすまいな?
愚かな行いの報いを受けよ。自らの誇りも使命も忘れた、妖の面汚しよ。】』
『──ふむ。取りあえず【おろち】殿、お便りありがとなのじゃ~! これもアンジニティからの投稿じゃな』
『察するに、随分と酷い目に遭ってきたのじゃな。ヒトの好奇心は時に、知らず我らを過剰なほど傷つけることもある。
そうじゃな。わしはヒトの味方じゃ。逃げも隠れもせぬ。
そなたがヒトに報復をするならば、わしは悲しい。そして、そなたはまたこの地でもヒトに勝てぬじゃろう。』
『古来より、妖やカミのもたらす災害を受けてきたのはヒトじゃ。
長い時と、幾多もの積み重ねを経て、彼らは沢山のことを学んでいく。【おろち】殿。そなたはなぜ、妖がヒトに勝てぬのか、考えたことは無いか?』
『世代を超えて、沢山の死の記憶を継いで、ヒトは災害に対抗する術を編みだしていく。
病が流行るなら薬を作る。川が氾濫するなら堤を作る。不作が続くなら、少しでも育つ作物を見つけ出す。火の手が上がるなら火消しが動き、獣が出るなら狩人が武器を持つ。
分かるか? ヒトは学び、変わるいきものじゃ。
妖はそうはなれぬ。時を経て変化することはあっても、成長することは無い。
次の世代が生き残れるようにと、祈りと知恵を託して死ぬようなことは、無い。
妖はヒトに勝てぬ。命を繋ぎながら永久に学び続ける生き物に、勝てる筈がないんじゃよ』
『【おろち】殿よ。どうか怒りと恨みを収めておくれ。
そのまま滅されるようなことがあれば、そなたは本当にただの怨霊へと成り下がってしまう。
わしは、そのようなことを見過ごしてはおれぬ。
怒りが抑えきれぬなら、言の葉に乗せればよい。他におらぬなら、わしにぶつければよい。
そのためにお便りをくれたのじゃろ? 牙を剥くよりも先に、伝えたい言の葉があるのじゃろう。
相談しておくれ。陣営など、どうでもよい。
ヒトが一人でないように、そなたにもわしがおる。縁はもう、繋がっておる』
『また、おたよりをお待ちしておるぞ。いずこかの蛇神さまよ。』
『おおっと、いつの間にかこんな時間になってしもうた!
今日の“今宵も朝まで寝tonight!”はここまで! 最後にお便り募集のおしらせじゃー!』
『当番組では、様々なお悩みを持った方からのお便りを募集しておるぞ! イバラシティ、アンジニティと、どんな方でも大歓迎!』
『“Cross Rose”のチャット機能にて、どしどし応募しておくれ! 私安倍葛子が、ゆるーくお答えするゆえな!』
『それでは皆、佳いハザマライフを。ではの!』
(荒廃した街中のスピーカーから。Cross Roseの仮想回線から。テレパス系異能の通信パルスの中から。どこからともなく、ラジオが聞こえている。)