──茨街とは異なる世界。異なる時間。異なるコトワリ。
そんな世界の断片的な記憶のカケラ。
闇を切り裂くように朱い雷光が走り、そしてそれは実際に闇に聳えていた廃ビルを切り裂いていた
「ち、外したか。ちょこまか逃げるんじゃあねえよクレイジー野郎!」
男のような荒い言葉遣いで赤い髪の女は叫ぶ。その両手には光の剣。
彼女が宙を舞うたびボロボロのジャンパーが翻り、次の瞬間には閃光となって闇をなで斬りのように焦がしていく。
「あいかわらず手荒いなぁ、久しぶりにあったんだし昔話の一つでもするとかそういうのはないのかい?まぁないだろうね。」
クレイジーと呼ばれた男は飄々とした態度で光の剣を紙一重で避けている、ように見える。
「そしてもう一つ言っておくと、別に逃げてるわけじゃあないよ。君が攻撃をミスっているだけさ」
女の方は縦横無尽に中空を駆け巡って仕掛けてきているのに対し、男は少々跳ねたり移動を挟むもののほとんど動いていないようなものだった
「んなことぁいちいち言わねえでも解ってんだよ!!バカにすんなよバーーーカ!!」
「うちの弟子可愛がってくれた礼は絶対しねえと気がすまねーってんだ!泣かす!ボコしてから泣かす!そのあとまたボコす!!」
朱い女が吠えて。
「あぁ少年、かわいいよね。わかる。」
白い男が頷き。
「同意を求めてるわけじゃねえんだよ!!とりあえずおとなしく死ね!!!ほんとしね!!土下座しつつ死ね!!!」
苛烈極まる高度な戦闘の内容と裏腹に会話の内容は壊滅的なものであった。
しかし時間だけは流れるも決着がつく様子はつゆとも見えず
「これじゃあ埒が明かねえな・・・」
「仕方ねえ・・・面倒だしやっちまうか!」
疲労が溜まってきているであろう女はそれでも口角を吊り上げ不敵に笑みを浮かべ
両手の光の剣を地面へと突き刺し詠唱を始める
「スペルかな?君が行動する、という点で異能が発動してしまうから僕には多分決して届かないから無駄だし、やめといたほうが良いと思うなぁ、疲れるだろうしね」
「スペル?んな大層な代物じゃあないさ、あたしはただ、許可しただけ」
虚勢でもハッタリでもない不気味なほどの自信。それに呼応するように周囲の空間が歪みだした
「あ、その前に一つ聞いておきたかったんだけどさ」
歪みは天へと達し、今彼らが戦闘していただろう周辺をあっという間に覆い尽くし
「あんたさ、いつも人の運のコトばかり心配してるけどさ」
歪みから光が滲み出るように漏れ出し、ぽつ、ぽつと雨のように徐々に──
「テメエの運勢は、良かったっけな?」
「あたしかい?」
「──あたしは絶好調さ!!!」
「『ジャッジメント・レイ・アンリミテッド』!!」
──瞬間。歪みに覆い尽くされた空間を
『対象』を取らず、『標的』を選ばず、何の『意思』も『意志』も介在することなく
それはつまり──
ダイスは振られず
ただ、ただ光の暴力が嵐のように、大地を、空間を、すべてを抉るように降り注いだ
光の嵐が、過ぎ去り。
そこには果たして。
果たして、男は立っていた。
だが、以前と違うのはその白い衣装は、ボロボロと、己が血で赤くにじみ
「ははは……僕の運は悪かったみたいだねえ……そういえば昔からそうだった。」
「でもまぁ君も動けないみたいだし、痛み分けってとこかな……」
ぶらり、と動かない腕を垂らしつつ、ざり、と足を後ろへ
朱い女は瓦礫と化した壁へ保たれるようにして動けずにいた
宿敵を目の前にし、あと一歩で打ち倒せる、その状態で
「て、め……あたしの勝ちだろこれ、待ちやがれ……」
途切れそうになる意識の中、精一杯の声を振り絞るも
「待て、と言われて待つ悪党なんていないよ。今日のところはこれで勘弁してほしいね……イタタ」
土煙晴れぬ戦場を傷を押さえながら去っていった。