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鏑木ヤエの場合・4(1/2)
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男と女が、ダラダラと二人並んでテレビを見ている。
時期外れになった炬燵に足を突っ込んで、その上に載せられたピザを口の中に突っ込んで。
ただただ、サッカーを見ている。
「どっち勝つと思います?」
ただただ、サッカーを見ている。故にその男の顔に浮かぶ表情は、ただただ興味はそこまでなさそうであった。
「得点を沢山入れた方」
「おもしろくねーですね。……部活とか、やらねんですか。渡辺慧は」
「理由がいるだろ、面白くなるには。……部活ねえ。君の……あー、えーと。なんだっけあれ。でー……まぁいいや。なんかあれで十分でしょ」
「いいえ、そうでなく。きみ、所属に対する欲求っていうのはないんですか。共同体に所属する、ということは、社会に属するということです。そして、社会で一人で生きていくというのは、難しい」
「まるで俺が所属から逃れているみたいな言い分だね。言っておくけどこれでも普通に学校に行ってるし、普通に生活してるし、社会にだって、適応してるさ。君の方こそ問われるべきでしょ、それは」
「いいえ、ヤエはできるけどしていないだけです。きみのほうは、違う。しているつもりにしか見えない。それに、……きみは、何を錨にするつもりですか。風に吹かれた時に、何を支えにすんですか、って聞いてんですよ」
「……妙な言い草だなぁ。社会に属するって事はさ。周囲に誰かいるって事だ。周囲に誰かいるって事なら、社会に属するっていうなら、そう見えてればいいだろ。つもりだろうが、なんだろうが。俺がどう思おうがそんなに関係ないよ……別にその中身が風で飛ばされるような物でもさ」
「風で飛ばされちゃあ意味がないでしょう。きみ、高いところが好きなんですから。社会というのは、常に風になりえる。人が集まればなおのことです。……何度もいいますが、地に根を張るべきと、ヤエは思いますよ。きみは、」
「きみのことが大事じゃあないんですか」
「大事だよ。大事だから、好きなようにやってるんだろ。その結果どうなったところで、……それは俺の結果だろ」
「……それはね、大事にしてるとは言わねーんですよ。大事にしていたとしたら、『どうなったところで』なんて言葉は出ねーんですよ。ねえ、それならヤエにくださいませんか。渡辺慧。悪い話じゃあねーですよ」
「……、……。何を? 俺を? 君の好きなようにとでも言うのかな、俺は。……、はぁ。なんだろうね、これ。そういうと思ってたんだけどさ」
「いやあ。恋人になりましょうって言ってんですよ。相互に関係として、錨として、とまり木として。どうだっていいと言うなら、そうしてくれたって構わないでしょう?」